4ー9
紫電の限界はもって二分。
発動中、膂力・速度の向上と引き換えに、術者の体を苦痛が蝕む。
「カナメ」
ふと、背後に立つオリヴィエに声をかけられる。振り向こうとしたが「そのままで」と言われ、動きを止めるカナメ。背中には掌の感触があった。
「魔術を施した」
「え?」
「紫電だろう? それ。体に負担がかかることは本で学んでる。その痛みを相殺し続けるよう、カナメの体に私の魔術を刻んだ」
「オリヴィエさん、それは」
誰かを治すことは辞めた。そう誓ったオリヴィエの信念を曲げさせたことにカナメは負い目を感じる。それを察したのか、オリヴィエが優しくカナメの背中を叩いた。
「カナメが怪我をすればどんな傷でも私が必ず治すよ。この程度しか力になれなくてすまない。あと、これを」
オリヴィエから手渡されたそれをカナメはそっと懐に仕舞う。
振り向くことはない。
前を向いたまま、敵の動きを観察し続ける。
「ありがとう、オリヴィエさん。必ず勝ちます」
「ああ、信じてるよ」
それを聞いて自然と口元に笑みが浮かび、そして地面を思い切り蹴ったカナメ。
じりじりと距離を詰めてきていたリックの懐に一瞬で入り短刀を振るう。反応に遅れた彼の頬に一線の傷が入る。
「ちっ」
舌打ちをしたリックが反撃の長剣を振るうが、それを難なく躱すカナメ。
ターン制の攻防を繰り返していけば勝機はカナメにある。現にリックはカナメの速度に対応できていない。オリヴィエのサポートによって紫電による痛みもなく、いつも以上の動きを引き出せている。これ以上はないほど絶好調の中、離れた場所から雷が落ちたような音が響き渡って、そして。
この場にいた魔術師達の背筋が凍る。
おぞましい何かを、三人は同様に感じ取っていた。
魔術師は魔力を観測することができない。だが、あまりにも密度の高いそれは離れていても嫌というほど伝わってくる。対峙していた二人は一瞬、マーリン達がいた方角を見る。術師の理から外れてしまったかのような規格外の存在が、その魔力だけで場を呑み込んでいるという事実。
普段マーリンと一緒にいるからこそ、カナメには分かっていた。冷たさ、ただそれだけを感じさせるこれは彼の魔力ではない、と。
「クルミ、まさか……」
彼もまた、確信があるのだろう。
自身の仲間が何かに成ったのだと。
その戸惑いを突くよう迷いなく繰り出したカナメの刺突に、リックは素早く反応し短刀を弾いた。
一見、変わりようのない攻防だったが、カナメはすぐさま気付く。
「紫電……」
自身と同じ魔術を、リックが使用したことに。




