4ー8
「私からも聞きたいことがあるんだけど」
地面の揺れが続く森の中、刃を交え続けるカナメとリック。互いが余力を残し出方を窺っている状況下で彼女は問う。
「どうしてオリヴィエさんを襲うの? あなた達に何かした?」
「してないな、いまは。だがこれから先、脅威になるかもしれない」
「脅威? よく分からないけど、オリヴィエさんは医療から離れてる。あなた達の敵にはならない」
「生きている限り敵になる可能性はある。俺は俺の都合で、オリヴィエを殺す」
「……そう」
剣戟の最中、意外な反応とでも言うようにリックが目を大きくする。
「何も言わないのか? 偽善者はてっきり正義を振り翳すものかと」
「他人の事どうこう言えるほど、私は綺麗な人間じゃない」
あの日の罪を。
マーリンと邂逅し、刃を向けたという過去を、生涯忘れることはない。
「私もあなた達と同じ、自分の都合でここに立ってる。私はオリヴィエさんに生きて、これからの人生を楽しんでほしい。ただそれだけ」
「……いやになるね、全く。ーー最後の確認だ。手を引く気は?」
「ない。あなたは?」
「言うまでもない。悪いが、クルミが心配だ。さっさと終わらせよう」
カナメから距離をとり、武具を右手から左手に持ち替えたリック。術式が刻まれた右の掌を薙いだその先にはオリヴィエの姿がある。
そして先と同じ輝き。薙いだ勢いで現れた数本の短剣がオリヴィエを襲うーーその前に、カナメの姿がそこにはあった。
紫電。
目で追うことができない速度で、オリヴィエの前に現れたカナメがそれらを全て弾き落とす。その代償に、カナメが手にしていた短刀は砕け、使い物にはならなくなった。
「これで三度目。ストックはあるのか?」
そう、これで三度目。
リックがカナメの武器を破壊した数である。
彼が手にしている禍々しい長剣ーー見た目からして、何かしらの魔術が働いているのだろう。常に手入れしてるのに、あれと刃を交えてから壊れるのが明らかに早い。一度破壊されてから警戒はしていたが、染み付いた身体の癖はなかなか直らない。どうしても攻撃を短刀で弾いてしまう。
思案するカナメ。
この状況で、正しい選択を探る。
紫電を発動したままではオリヴィエを抱えて逃げることはできない。カナメの全身を纏う魔力が彼女を傷付ける。かと言って紫電を解除し、先みたいに逃げ回ったところで追いつかれるのは目に見えていた。オリヴィエ一人で逃げてもらうーーそれはないと即座に考えを否定する。森の外に仲間、雇われの術師、若しくは魔術による罠が一つでも絡めばオリヴィエに危険が及ぶ。
カナメの視界にオリヴィエがいること。それが一番安全だと判断し、予備の短刀、その最後を懐から取り出す。




