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自己・術式の強化、環境の変化など様々な効果を及ぼす解錠が何故、魔術の極致と唱えられているのか。それは単純な効果範囲ーー規模の違いである。解錠後の術師が扱う魔術は書物には記載されておらず、その術師のみが扱える解析不可、オリジナルの術式だ。魔導に於いても理解の埒外にある。
また、魔導の通説では解錠した魔術師相手に戦うには同じく、解錠をした魔術師でなければ戦いにすらならないと言われている。まさに天と地の差、万が一の勝機もないと言われた状況下の中でも少年の口角は上がる。
「クルミ、と呼ばれていたな。興味がないと言って悪かった」
「いいわよ別に、もう気にしてないわ。いまの私は何でも許せるの。寧ろアナタには感謝してるくらい」
「感謝?」
「そう、感謝。興味がないと言われて、私は私がどれだけちっぽけな生き物か漸く向き合うことができた。アナタがいなかったらこの世界を知ることができなかった。アナターーねえ、名前。名前を知りたいわ」
「言ってなかったか? マーリンだ」
「そう、マーリン。彼の国の英雄と同じ、いい名前ね。覚えておくわ、少年のマーリンーー」
死線を越えるか否かの局面。
森の女王が煌びやかな爪を少年に向けて指す。
「ーー心からの愛をこめて、息の根を止めてあげる」
ゴーレムが主を護るために両腕を広げ、盾になろうとした束の間、地面から生えた樹木に締め付けられ、粉々に砕け散る。
そして、少年の四方から襲いかかる樹木。しなやかな動きを見せるそれをマーリンは躱し続け、地面から突如生えた樹木も咄嗟に回避した。空に逃げようと風薙を使用したところで、上からの幹に弾き落とされる。
マーリンが声を漏らす。
ーー見えていても、数が多過ぎて対応できない。
着地の瞬間を狙って、巨大な鞭はマーリンの腹部目掛けて薙ぎ払いを見せた。
「ふふ」
吹き飛ばされた少年を見てクルミは嬉しそうに笑っている。立ち上がった少年の口元からは血が垂れていて、恍惚とした表情でそれを見つめていた。
「どう? 自分を殺せる魔術師が目の前に現れて」
「……悪くない気分だ。認めよう、クルミ。お前は俺の相手に相応しい」
「あはっ。強がりね。可愛いわ、とても」
マーリンは視認する。
周囲の木々が一瞬にして魔力を宿し、人の形を成す。
木製の人形が五体。
自身の体から木剣を生み出し、少年を囲み、一斉に襲いかかる。
現在。
マーリンの手札に、解錠はない。




