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『クルミ、無理をしてはいけないよ』
「せんせ。でもわたし、がんばらないと」
『どうしてだい? 充分に頑張ってるよ』
「だってだって、わたし、ヘタクソだから。ヴァンやシャルみたいに、まほう、じょうずにできないから」
『そんなことない。クルミはとても上手だよ』
「……せんせには分からないもん。せんせ、まりょくがないんだから」
『……そうだね。ごめんよ、クルミ』
死ね。
死ねよ、私。
何で、こんな記憶。
何で、いま、こんなときにーー
『クルミには才能があるよ』
「ないわよ、そんなの。私が一番に分かってる。嫌味? ヴァン」
『嫌味なんかじゃない。先生も言ってたよ、クルミは天才だって。でもクルミは周囲と比べて自分を下に見てる』
「…………」
『いずれクルミは辿り着くよ。俺やシャルと同じ場所にーー』
ーー魔術の最奥、その場所へ。
見下していた、自分自身を。
せんせが死んでからも、ずっと。
それで強がって、私は私を偽っていた。
でも、自分よりも一回り小さな子供にすら魔術で敵わなくて、その強がりもぐちゃぐちゃに砕かれた。
私は私を信じることができない。
でもね、せんせ。
せんせの言葉だけは信じてみようと思う。
四肢蛇が弾かれる。
空気と地面が震える。
その目を以ってしても理解に遅れる。
あからさまな異変にマーリンが目を見開く。
「見ててね、先生」
この現象をマーリンは知っていた。
信じられない思いでそれを見詰める。
球体。
樹によって形成された球体が、クルミの姿を完全に隠していた。中で蠢く魔力に合わせて振動し続ける球体に向け、マーリンは迷うことなく魔術ーー雷槍を落とす。周囲に響く落雷の音、ばらばらに舞う幹の破片。天上から放たれた雷を受け、円の形を成していない樹木の中からーー動く人の姿。
それはまるで孵化だ。月の光を一身に受け、祝福されているかのような誕生にマーリンは目を奪われていた。
目に入ってきたのは真紅のドレス。一見場に相応しくないそれは、夜の森を背景に一層美しさが際立ち、妖艶さを魅せている。髪型はおさげではなくなり、背中に流した赤茶の長髪と、伸びた黒色の爪。
「似合っているかしら?」
先とは違う、別人かと疑うほどの艶やかな笑みにマーリンは「ああ」と返事をする。
魔導に於いての開かずの扉。
目の前にいるのは、その先に足を踏み入れた一人の魔術師。
解錠。
其れは術師が目指す最終到達点、魔術の極致。




