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声をたてて欠伸をする少年の前で彼女は一切身動きができないでいた。隙だらけに見えるというのに直感はその考えを否定する。
「どうして」
思わず発した疑問。
遅いと開口一番にマーリンは言っていた。
「どうして分かったの」
「それ」
マーリンが指をさした先にカナメは惑う。
「武器か何か提げてるだろう? 魔力がダダ漏れだ」
「そんな筈は」
「魔道具でもないただの道具か? 知らないようだから教えてやろう。魔術師も魔物も血には魔力が流れてる。ーーお前、殺しすぎなんだよ」
武器は壊れるまで使う彼女にとってその知識は絶望以外の何物でもない。腰に提げた短刀に視線を落とす。この武器で一体どれほどの魔物を殺してきたか、カナメは覚えていなかった。
「そんな奴が存在を消してこちらの様子を窺ってるなんて、まるで気付いてくださいと言っているようなものだ」
少年の言葉に彼女はただ黙るしかない。
おそらく、家に罠が張っていないのもこの部屋に誘き出すためだろう。まんまと誘われた訳だとカナメは内心で自嘲する。
じっと。夜に輝く青の瞳がまるで値踏みするかのようにカナメを見つめている。
「で、誰の差し金だ?」
「……わたしも知らない」
「そうか。ならさっさと失せろ」
しっしっ、と手を払うマーリンに目を見開くカナメ。自身を殺しにきた刺客に対してあまりにも余裕なその態度に彼女は格の違いを思い知らされていた。
「見逃してやる。暗殺か拉致か、お前の目的はそんなところだろう。無理な願いだそれは。誰にも叶わない」
続いて「あと来るの遅過ぎ」と不機嫌を顕にして文句を言うマーリン。「もう眠いんだ俺は。さっさと帰れ」
「悪いけど」
もう何もかも見透かされているなら戦いやすい方がいいと外套を投げ捨てるように脱いだカナメ。傷のない薄茶色の肌。長い黒の髪は後頭部で一つに纏められ、その黒い瞳はマーリンだけを見据えている。
鞘から引き抜かれる短刀。
「ここまできて帰るわけにはいかない。無理な願いだとしてもわたしは」
その鋒を、覚悟を、少年に向ける。
「あなたを殺す」
「……ほう?」
想定外の反応だったのか。眠そうにしていたマーリンが興味を持ったかのように目を開く。
「覚悟はできているという訳か。それなら試すような態度をとって悪かった」
気が変わったと、ベッドの上に立ち上がるマーリン。
対峙する二人の魔術師。
室内に満ちる殺意と魔力。
「少し遊んでやる。ーー来い」
幕が上がる。
誘われるがまま、カナメはその短刀を突き出した。




