4ー1
空に浮かぶ少年の返事を聞いて「はっ」と一笑に付すクルミ。
「見たまんまね。理想と現実の区別もできてないガキが。アンタなに、教団関係者?」
「もしそうだと言ったら?」
「殺すけど。もしかして子供だから殺されないとでも思ってる?」
一触即発の中「オリヴィエさん」と声を掛けた魔術師が返事を待たずにその体を抱え、背中を向けて走り出す。
「リック、追って」
「クルミ、一人であいつはーー」
「オリヴィエ優先、行って」
「……分かった」
クルミの言葉に頷き、即座にオリヴィエ達を追うリック。彼が何を伝えたかったのかクルミには分かっていた。
何かしらの魔術で少年が浮いているのは分かる。問題なのはそれを維持しリックの武具を一撃で破壊したことだ。ただの子供でないことは明白で、そんな、普通とは違う少年が座したままリックに指先を向ける。
「俺が行かせると、」
「マーリン!」
制止の声で、マーリンの魔術が中断される。
「任せて!」
短い言葉。
たったその一言で、少年は彼女に全幅の信頼を寄せた。
「ああ。任せた、カナメ」
口元に微かな笑み。その様子を見て、クルミの苛立ちは募るばかりだ。
「随分余裕そうね」
「焦る必要がないからな」
「本当に死ぬよ? アンタ」
クルミの言葉を聞いて笑い声を漏らすマーリン。
「なに笑ってんのよ」
「いやなに、理想と現実の区別ができていないと思ってな。俺を殺せる魔術師などこの世に存在しない。お前こそ、子供に殺されないとでも思ってるのか?」
「ムカつくガキね本当に。いいわ、現実を教えてあげる。ーー空、安全だと思ってるでしょ」
二人の空間に魔力が満ちる。クルミが足音を鳴らした瞬間、地面がひび割れては太い樹木が現れ、勢いのままにマーリン目掛け伸びていく。
ゆっくりと空の上で立ち上がったマーリン。まるで背後に段差があるかのように、正面を向いたまま後ろへと跳ね、軽やかに空の階段を昇る。
そうして目と鼻の先で止まる樹木、その尖端を前にしてもマーリンに一切の動揺は見られない。まるで最初から分かり切っていたかのような対応だ。
内心驚いてはいたが表に出さず、追撃に及ぼうと魔力を足に集中し、斜めに向かって天に伸びる樹木の上を走り出すクルミ。それと同時に少年が幹の上に降りて待ち構える。
向けられる指先。
それはリックの武具を破壊した魔術、風斬。
「躱せるか?」
「必要ないわ」
風斬が放たれた瞬間に立ち止まり、クルミの足元から再び樹木が生まれる。主を護る壁となったそれらは一転し、再びマーリンを突き刺さそうと自由自在に伸びていく。




