3ー11
理不尽にも程がある。
話をするのも馬鹿らしくなるほどだ。
教団を壊滅させる、そんな狂った考えを持つ連中に話が通じる筈もない。そもそも敵う訳がない、エルドラ魔導教団は選りすぐりの魔術師が集っている。その中でも隊長に位置する術師は人智の及ばない化物と耳にする。
ため息を吐くオリヴィエ。
こんな話、最初から結論は決まっている。
「……交渉と聞いていたんだがな。これはただの脅迫だ」
犯罪者に加担するほど自身の命が惜しいとオリヴィエは思っていない。
彼女は一度自ら命を絶とうとした身。
死ぬことに恐れはなく、
「話は断る。殺すなら殺せ」
自身を曲げるつもりはない。
オリヴィエのそんな態度に、女はまるで気にしない様子で「そ」と一言。そしてオリヴィエに魔術をーー
「待てクルミ。オリヴィエ、教団が提示する金額以上の金は積む。それでもか?」
「これは信念の問題だ。幾ら積まれようが無理なものは無理だよ。正直、教団をどうにかしたい理由も私にはどうでもいい」
「本当に死ぬぞ」
「それでも私は、私を裏切ることはしない」
「……そうか。…………残念だ」
どこか苦しそうに声を発した男の手にはいつの間にか長剣が握られていた。先まで何も手にしていなかった筈だ、何かしらの魔術だろうとオリヴィエは推測する。
男がオリヴィエに近付く。
自由を得て、旅をして、理不尽に殺される。
仕様もない人生だ。子供の頃に描いた夢が自身を苦しませ、両親に悲しい顔をさせた。責任から逃げ出し、行く宛もない旅をして、大人であることを放棄した。
それならこれは自身への罰だろうか。
大人しく受け容れることが、正しい在り方なのだろうか。
ーー懐に手を伸ばすオリヴィエ。
伸ばした先には魔術を用いた特殊調合の注射器が数本ある。
死ぬのは別に構わない。
人間はいつか必ず死ぬから。
ただ、こんなクソみたいな連中に殺されるのは胸糞悪い。
「無駄な抵抗だ」
真顔で言う男に一矢報いることができればーーオリヴィエが懐から道具を取り出すよりも先に、振り下ろされた刃は目の前で真っ二つに折れた。
「なっーー」
「忠告した筈だぞ、オリヴィエ」
空から、幼い声が降る。
そしてオリヴィエの背後には、いつの間にかカナメが立っていた。
「誰? アンタ」
クルミと呼ばれた女が、空の上に問う。男の剣を折ったのが誰なのか一瞬で見抜き、その視線を離さない。
月を背景に。
片手で頬をつき、空に座る少年は応える。
「魔術王」




