3ー10
「お前達、限度がーー」
うんざりした表情で振り返ったオリヴィエか言葉を失う。早朝に見た二人組とは違う長身痩躯の男が、自身を見下ろしていた。
「交渉がしたい。悪いが付いてきてもらおう」
「……断ると言ったら?」
「断ってみるか?」
不意に、オリヴィエ達の横を通り過ぎた仲睦まじい家族に目線を向ける男。子供を視界に捉えたその目配せだけで彼女の選択肢は一つに絞られる。
「……分かった。従うから何もするな」
「話が早い。こっちだ」
男に大人しく付いていくオリヴィエ。
仕事柄いままで色々な人間を見てきた。そのどれもに該当しない、冷たい眼差し。交渉と口にしていたがこんな形で連れ出す辺り、まともな人間でないことは明らかだ。
黙って街の外まで歩き、やがて見知った森に辿り着く。そこは先の依頼で荷台から見ていた景色の一つで、まさか今日踏み入るとは夢にも思わなかったオリヴィエ。男に付いていくとひらけた場所に出て、その中心に腕を組んで待っている人物がいた。
「待たせた」
男が声をかけ、オリヴィエと共に近付く。
既に陽は沈み、月がその人物を照らす。目の前にいたのは見た目からして若い女性だ。カナメと同じくらいの年齢だろうか、気が強そうだと立ち姿で察せる。
「遅い」
「悪い悪い。一人になるのを見計らってたんだが、なかなかな」
「言い訳いいから。で、返事はなんて?」
「それをいまから聞く」
事前に話しただろと呆れた口調で頭を掻く男がオリヴィエに視線を向ける。
「単刀直入に言う。オリヴィエ、俺達の仲間になってほしい。目的を達成する、その時まで」
「目的……?」
「ああ。教団を壊滅させるその間まで、俺達のサポートを頼みたい」
「……は?」
思考が停止する。
いま、こいつは何を口にしたんだ?
「正気か?」
「まあ、そうなるよな。だがそれだけの力が俺達にはある。いずれエルドラも気付くさ」
「……悪いが信じられないな。そもそも何故、教団を敵視している?」
「それはーー」
「オリヴィエ」
女が口を挟む。
男と同じ眼差しでオリヴィエを見ていた。
「話の先延ばしはやめて。アンタに選択肢は二つしかないわ。私達の仲間になるか、死ぬか」
「……意味が分からないな。断れば私を殺すのか?」
「ええ」
「何の為に?」
「教団の連中と協力関係を結ぶ、そのことを私達は恐れてる。そうなるくらいなら殺すわ」
「それは有り得ない話だ。私は教団の誘いを、」
「何度も断ってる、そのことは知ってる。でも、生きている限り有り得ない話ではない。人間いつ気が変わってもおかしくないでしょ? 少しでも可能性があるならその芽を摘むわ」




