3ー9
「そういえばオリヴィエ」
「うん?」
「依頼は暇潰しと言っていたがこの後用事でもあるのか?」
「いや、そういう訳じゃないんだ。ギルドに来る前、教団の連中に追われててね」
「ああ、スカウトか。ヒバナが言ってたな、そういえば」
「何だ、誰かから聞いてたのか。ほんと、奴等しつこくて、毎回会う度に付き纏ってくる」
「大変だな」
「大変さ。連中体力あるから撒くのに時間がかかる。シルバに戻ったとき、待ち伏せされてないかが心配だよ」
「そのときは一役買おう。連中を撒くくらい造作もない」
「ありがとう、マーリン」
少ししてカナメがララを連れて戻ってきた。「仕事が速いですねー」と間延びした声を出し地面に掌を置く。
物理的に人の手を必要とせず、緩やかに描かれていく光の線はアイスベアーを囲み、円が完成した途端、中心を縦に割れる。そこから長い舌が二匹を絡めとってすぐさま割れ目に引き込む。そしてあとには何も残らず、光の円は輝きを失って消えた。いつ見ても怖いなとオリヴィエは思うが、処理した当人は普段と変わらない様子だ。
「回収完了しました。三人ともお疲れ様です」
「私は何もやってないな」
「マーリンもやってないですよ」
「…………」
「ごめんって」
不貞腐れた表情のマーリンを見て思わず笑ってしまうオリヴィエ。そんなオリヴィエを見て顔を見合わせる少年と彼女。二人の口元にもまた笑みが浮かび、シルバへの帰路を辿るまでの間、他愛ない会話をして時間を過ごした。
その後は露店を巡り討伐祝いに夕食を共にしたオリヴィエとマーリン達。空は薄暗く、陽が沈むまで間もない時刻を迎えた頃、二人とは解散してオリヴィエは街の通りを歩いていた。
夕食のときにマーリンが忠告していたことを思い返すオリヴィエ。二人の魔術師に尾けられている、と。おそらく朝に追っ掛けてきた教団の連中だろう。送っていこうかと申し出てくれた少年だが断りを入れた。
短い時間だったが充分に伝わるほど、マーリンとカナメは優しいとオリヴィエは心から思う。それだけに申し訳ない気持ちがあった。彼が掛けられた呪いを診ても良かったのではないかと。
視線を手元におろすオリヴィエ。ーー両手が僅かに震えていた。誰かを診ようとする、そう考えただけでも忙殺されていた日々が鮮明に蘇る。
「情けないな……」
どうしてこうなったのかは言うまでもない。私が弱かったからだとオリヴィエは結論づける。無理なものは無理だと断る勇気があれば、あんなに両親を心配させるようなこともなかった。
みんなを助ける、なんてのは子供の夢だ。
それを私は大人になっても分からなかった。
内心で自身を嘲笑うオリヴィエ。……折角楽しい時間を過ごしたんだ。暗い考えはやめようと宿に向かう足取りを早める。
「オリヴィエ・クレセント」
突然、背後から男に声をかけられる。わざとらしくため息をこぼすオリヴィエ。気持ちを切り替えたばかりだというのに、一気に不快な気持ちになった。




