3ー7
真っ白な体毛、緩慢な四足歩行。アイスベアーと呼ばれた目の前の魔物は、名前の通りただの熊と変わらないように見える。違いがあるとすればそれは宝石のような紅い目と、魔術を行使するということ。
「来るか」
呟いた少年。
咆哮をあげた二匹のアイスベアー、みるみる内にその全身が氷に覆われていく。
「まるで鎧だな。ーーオリヴィエ」
オリヴィエの方へ振り返り、どこか悪戯な笑みを浮かべるマーリン。
「にわかには信じがたいと、そう口にしていたな。ここで証明しようーー俺がマーリンであることを」
そうして、眼前の敵へと向かい合う少年。
いまにも襲いかかってきそうな二匹の魔物を前に彼は屈み、片手と片膝を地面につける。途端、盛り上がる地面。瞬く間に形を成していくそれは人の姿を模していて。
「……すごいな」
魔術の発動、その速度が常軌を逸している。
立ち上がった彼の前に現れたゴーレムは腕も足も太く、全体的に丸い体型だ。二つの眼は空洞となっており、お洒落なのか草の冠が頭上に見える。驚いてるオリヴィエの隣でカナメもまた「おお」と反応を見せる。
「何だか可愛いね?」
ゴーレムがカナメの言葉に反応してか、照れたような仕種で頭を掻き出す。
……え?
自我あるの?
「ふふーん、そうだろう? クラウンゴーレムーークラちゃんはそこらのゴーレムとは訳が違う。この造形美、愛嬌、全てが一線を画し、主人を護るためならどんな敵にも立ち向かう、まさに勇者だ」
クラちゃんが人体でいう上腕二頭筋を見せつけるかのようなポージングをとる。アイスベアーは警戒しているのか、はたまた戸惑っているのか、いまだ攻撃してこない。
「ふっ、我が守護者を前に怯えたか? 魔物。クラちゃん、引導を渡してやれ」
「ゴオオォォ」
「喋るんだ……」
カナメの戸惑いを気にせずにのっしのっしと走り出すクラウンゴーレム。体長でいえばアイスベアーよりもゴーレムの方が上回っており、思い切り振りかぶった右腕がアイスベアーに届くーーその前にクラウンゴーレムは一瞬で氷漬けにされた。
「「よっわ」」
カナメと全く同じ言葉を発するオリヴィエ。アイスベアーは腕力も噛み砕くその力も野生の熊とそう変わりはしない、が、特筆すべき点が一つ。対象を凍らせる息吹ーー魔術を行使し、それらを保存食として巣に持って帰る習性があった。当然、食える筈もないゴーレムに興味はなく、凍ったまま蹴られて横たわるクラちゃんをただ黙って見詰める少年。




