3ー6
馬の足音と荷台の揺れがよく聞こえる。
黙ったまま話を聞く二人を前にオリヴィエは胸の内を晒す。もしかしたら誰かに話を聞いてもらいたかったのだろうかと、そう思いながら。
「とにかく休みがなくてね。手一杯なのに、私の名前を知って遠いところから来てくれたひとや、小さい子供を抱えて泣きそうな顔をした親御さんーー全部、断れなかった。……そうして私は過労で倒れて、そこで両親に言われたんだ。自由になってくれと」
いまでもはっきりと思い出せるオリヴィエ。仕事場で倒れ、翌日にベッドの上で目を覚ましたとき、傍にいた両親の泣き顔を。
「それでいまは気儘に旅してる。ありがたいことに金は充分稼げたからね。暫くは体を休めて、そしてーー別の仕事に就こうと思う。だからもう、誰かを治すことは辞めたんだ。すまない」
「いや、謝るのは俺の方だ」
変わらず真剣な表情のマーリンと目が合う。断りをいれたというのに落胆の様子もなく、その堂々とした姿がオリヴィエには眩しく見えた。
「事情も知らずに急なお願いをした。話してくれてありがとう、オリヴィエ。ゆっくりと体を休めてほしいーーと言っても、いまから討伐な訳だが」
「いや、ギルドの依頼はいい気分転換だよ。……ありがとう、マーリン。カナメもすまないね。わざわざ遠いところから来たというのに」
「謝らないでください。こうして依頼を一緒に受けてくれただけでも有り難いですから」
そうだな、とカナメの言葉に頷き、視線をオリヴィエから隣へ向ける少年。
「カナメ、これでおそらく等級を上げるしか方法はなくなった。付いてきてくれるか?」
「言われなくても、どこまでも付いていくよ、マーリン」
笑いあう二人を見て、笑みをこぼすオリヴィエ。
あまりにも、眩い。目を閉じてしまいたくなるほどに。隣で律儀に耳を塞いでるララの肩を叩いて「もういいよ」と声を掛けるオリヴィエ。
「もう大丈夫ですかー?」
「ああ。気遣いありがとう」
「どもどもー」
そんな遣り取りを交わして、数分後には目的地の近くに辿り着いた。運んでくれた御者とララには待機してもらい、三人で洞窟ーーヘイルアビスへと歩き出す。
大昔は人々が暮らしていた洞窟で、いまはエルドラでも有名な観光地の一つだ。そんな場所につい数日前、魔物が棲みついているとギルドに報告が入り、そして現在に至る。
木々が生い茂る場所で立ち止まる三人。こちらの足音に気付いたのか、目の前に見える洞窟の奥から魔物が二匹、顔を出す。




