1ー3
人が寝静まった夜、空には三日月。
遠目には難攻不落のキャメロット城。
閑静な住宅地の中、フードを被ったカナメはゆっくりと歩いていた。
『忠告をしておきます』
自身の息遣いだけが聞こえる中、使いの女が言っていたことを思い出す。
『アレには魔力が視えている。真っ当な不意打ちは通用しません』
噂では聞いたことがあった。
しかし、それが事実であることは知らなかった。
ふざけた話だ。
不意討ち以外にどう殺れと?
『ですので魔術を使わずに寝込みを襲ってください。武器も魔道具ではなく普通の得物でいい』
そこは問題ない。
普段使いしてる得物はただの短刀だ。
魔物と対峙した時だけ魔力を籠めている。
得物が魔力に耐えきれず壊れてしまうこともしばしばあるが、それでも高価な魔道具を買うよりかはマシだ。
『施錠はこちらでどうにかしましょう。貴女は殺すことだけに集中してください。弱体化しているいまなら殺せます。貴女の腕なら確実に』
大丈夫ですよと、安心させるように使いが言葉を足す。
『子供の姿なら尚更、ぐっすりと眠っているでしょう』
いま思い返してもつまらない冗談だ。
不愉快を形にしたような女だったとカナメは評する。
下見を済ませていた目の前の平屋は質素で、いつ見ても対象の功績に見合っていないとカナメは思う。倹約家なのかお金に興味がないのか。
事前の打ち合わせ通り、玄関の扉の施錠は壊されていた。その辺りもあの使いが別の人間に頼んだのであろう。カナメは来たる時間まで近くの宿で潜伏していた為、その流れを直接確認してはいなかった。
傾いたドアノブに手を掛ける。
額から汗が流れ、拭うことなく己に問う。
いいのか? これで。
人の道を踏み外してまで母を助けたいなんて。そんなの子供の我儘だ。亡くなった父がいまの自分を見てどう思う? これを知ったサリアは? 母は?
父が亡くなったあの日、母とサリアが抱き合って泣いていた光景がカナメの脳裏から離れない。病で苦しんでいる母が家族に見られないよう声を抑えて泣いていたところも目に焼きついている。
もうこれ以上、二人にはーー
迷いを切り捨て扉を開ける。
魔術が絡んだ罠を警戒しながら歩を進める。
闇夜に慣れた目で居間を見渡し、何もないことを確認してから寝室まで辿り着くのに一分もかからなかった。拍子抜けするであろう流れに、しかし一切の油断はしない。
鍵のない扉。
ドアノブに手を掛ける。
カナメと、父に呼ばれた気がした。
躊躇はない。
振り切って、踏みこむ。
「遅い」
ベッドに腰をかけ、手に顎をついていた。
背後の窓は開けられていて、そこから見える月がその輪郭をはっきりと照らす。
銀の髪に、澄んだ青の瞳。
目に映っている全てが一枚の絵画のようだと少年ーーマーリンを前にしてカナメはそう思った。




