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信じられない話を淡々と口にするが、彼はあのマーリンだ。
ブリタニアの英雄、円卓の魔術師、その一人。
魔術王マーリン。
ブリタニアで彼のことを知らないものはいない。他国のエルドラでも名は知れ渡っている筈だ。自身の手にあるその紙が、辺り一面の筆跡が、彼の才と努力を物語っているとカナメは思う。
「解呪の書物もなければ、手掛かりも見つからないからな。空いた時間はこうして魔術に没頭するのが一番だ。いまの体に合った魔術をな」
立ち上がって床の紙を拾い集めるマーリン。
それに倣ってカナメも拾い、少年に手渡す。
「ありがとう。さて、ギルドに向かうか」
「……うん、そうだね」
「カナメ? どうかしたか?」
「ううん、何でもないよ」
全盛の一割も魔力がない。
セシリアから聞いた話をカナメは思い出す。
……どんな気持ちなのだろう。
自身の努力が、培った経験が、誰かに掛けられた呪いで無くなってしまうのは。
「そうか。体調が悪かったらいつでも言え」
こんな優しいひとに呪いをかけた魔術師を、カナメは嫌悪する。
しかし、どう思ったところでそれにはもう意味がない。
何故ならマーリンの手によってその術師ーーヴォーティガーンは殺されたのだと、ブリタニアでは広まっていた。
「しつこい」
早朝から賑わいを見せていた露店商が並ぶその通りで、オリヴィエ・クレセントは不快感を顕にして立ち止まる。
薄い緑のウェーヴヘア。グラスコードが取り付けられた眼鏡のつるを指で持ち上げ、背後にいる二人を彼女は睨む。
「何度断ったら分かる? 私は何処にも属さない」
「そこを何とかお願いします」
彼女の後をつけていたのはエルドラ魔導教団に属する二人の隊員だった。
「オリヴィエさんの力は教団にとって必要なんです。どうかご一考を」
「考えるまでもない。答えは同じだ」
教団の術師に背中を向けて歩き出すオリヴィエ。連中がまだ諦めていないのは背後の足音で分かっていた。
「待ってください、オリヴィエさん!」
「待たない」
歩く速度を少しずつ上げていく。
目指す場所は一つしかなかった。
「しつこいのは分かってます!」
「分かってるなら消えろ」
「それでも力になって欲しいんです!」
「ならない」
「このままその才能を腐らせるんですか!」
「…………」
立ち止まったら振り返って殴ってしまいそうだとオリヴィエは我慢を通し、目的の場所に辿り着く。
「オリヴィエさんーー」
「よせ、ギルドだ」
それまで黙っていた隊員が相棒を制止する。
その様子を見て一息つくオリヴィエ。
教団に属しているものがギルドに踏みこむことは基本的にない。何故なら魔導教団は副業を禁止としている。
もし彼等がギルドで姿を見せればあらぬ噂が立つかもしれない。副業禁止にも関わらず隠れて依頼を熟し収入を得たのではないか、と。そう思われない為にも彼等が立ち入ることはない。そこまで見越してオリヴィエはギルドに向かって歩いていた。




