3ー1
争いは無くなりはしない。
傷付けて、傷付けられての繰り返し。
病もまた、無くなりはしない。
治してもまた、別の病に罹る。
下らない世界だ。
夢を見るのも諦めるほどに。
「床で寝てる……」
シルバに着いてから二日目の早朝。カナメがノックをして声を掛けても返事がなかったので扉を開けると、床に散乱する紙の中でマーリンがうつ伏せで倒れ眠っていた。他にも、昨日に露店商で買った魔道具も散らばっている。
「マーリン。朝だよー」
うつ伏せのままでいる彼の背中をさする。眠っているところを無理に起こしたくはないカナメだったが、今日は二人でギルドに出掛ける予定をたてていた。昨日に続いての魔物退治だ。
ここシルバは魔道具に精通した街ではあるが魔導書が置かれた図書館はない。持て余した時間を解消するべく、二人はギルドで等級を上げることにした。早朝に行けば昨日よりもマシな依頼が掲示板には貼られていると二人は読んで、早めに行こうと話していた筈だが。
「マーリン」
「…………はい」
起きたらしい。
うつ伏せのまま、顔をこちらに向ける。
「どこで寝てるの?」
「…………何で床で寝てるんだ?」
「こっちが聞きたいよ」
のろのろと、うつ伏せから起き上がるマーリン。胡座をかいて座る眠そうな少年が、指で目元を擦る。その姿を見て、
「やっぱりマーリンって女の子にも見えるよね」
思わず口に出してしまう。
マーリンが心底嫌そうな顔をカナメに向ける。
「……一気に目が醒めた。次、同じこと言ったら怒るぞ?」
「ごめんごめん。……僕ちゃん」
「かーなーめー」
いまにも噛みつきそうな目で睨むマーリンに悪戯な笑みを浮かべるカナメ。どこか犬を思わせるその姿に、笑い声が漏れそうになる。
「ところでこれ、どうしたの?」
このままではにやにやが止まらないと思ったカナメは話題を変えようと辺りを見回す。床に散らばった紙を一枚手に取ってみれば、術式が綺麗に描かれている。
「新しい魔術を創ってた。テーブルだとサイズが小さくて無理だったから床に置いて並べてたんだ」
ーー新しく魔術を創り出すなんてことはカナメにとって未知の領域だ。多くの魔術師が先達の魔術を書物で学んでいる、その為の魔導書、その為の図書館だ。
実感する。
隣に座る少年は、魔術師として一線を画しているのだと。
「……すごい数だけど、幾つ魔術を創ったの?」
「一つだ」
「え?」
「この紙全てが一つの魔術、その術式だ。もっとも完成には至らなかったが」




