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少年のマーリン  作者: 相澤カナデ
幕間

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26/66

狼煙

 


 深夜、職務を終えて帰路を辿っていたエディ・ウォーカー。周囲に人の姿はなく、街灯に沿って自宅まで歩いていたエディの足取りはふらふらとしている。

 彼がエルドラ魔導教団十番隊副隊長に就いてから八年の月日が経つ。毎日が多忙でこのままでは過労死してしまうのではないかとエディは自分を心配していた。

 それに精神的にも辛いものがある。魔物に溢れたこの国で、仲間が殉職することはそう珍しくない。仲良くしていたものが唐突にいなくなるのは何度経験しても慣れはしなかった。責任ある立場になれば心も強くなると信じていたが、仲間の死を前にするとやはり感情が揺さぶられる。

 それでもこの仕事を辞めないただ一つの理由。

 それは金だ。

 自身には魔術の才があると自覚していたエディ。副隊長の座に就いたことでその才能は明確となった。野心などは一切なく隊長を目指してもいない。彼が現状維持を望んでいるのは、いまの収入で充分贅沢な生活ができているからだ。

 しかし、ため息をこぼすエディ。金はいいが、代わりに体が犠牲になっている。早く体を休めたいと足を前へ前へと踏み出す。住宅地から外れた場所に家を建てたのは街の喧騒から逃れて、家の中にいるときだけはゆっくりと休みたいからだ。帰宅まで後少しというところで、




「エディ・ウォーカーだな?」




 前方から、若い男の声。

 目線をあげれば、街灯の光から外れた場所にフードを被ったものが一人と、その奥にもう一人。


「そうだが。誰だ? 君達は」


 エディの言葉に男は応えない。

 そして、男の掌から微かな炎が見えた瞬間に大きなため息をこぼすエディ。

 突然の術師の襲来に取り乱すこともなく、冷静な心持ちで術式を展開する。

 金か恨みか、そんなことはどうでもいい。

 ただ職務を全うするだけだ。


「寝込みを襲えば良かったものの、真正面に来るとは。仕事を増やしやがって馬鹿が」


 馬鹿だからこそ、実力が測れないのだろう。

 教団の副隊長がどれほど魔術師として上位の存在なのか。


「一体誰がお前の遺体を処理すると思ってるんだ?」









「誰だ、と聞いたな」


 目の前で燃え続けるエディ・ウォーカーだったモノに男は返事をした。


「我々は教団を滅ぼす焔。この火はお前達を燃やし尽くすまで消えることはない」


 決着は一分にも満たず。

 エディ・ウォーカーは実力を見誤って焼死した。

 そうして、奥で待機していた人物が男に近付く。同じようにフードを被っているその人物は男よりも小柄である。


「思ってたより弱かったね」


 女性の声に、男は頷く。


「ああ、拍子抜けだ。()()をするまでもない」


「楽に終わって良かったよ。シャル達の方は心配ないけど、クルミたちは上手くいくと思う?」


「いや、断られるだろうな。オリヴィエは教団の誘いを何度も断っている。金に執着はないのだろう」


「それならシルバまで行かせた意味あるの?」


「あるさ。この先、教団に属する可能性がないとは言い切れない。断られた時点で殺せとクルミには命じてある」


 燃ゆる火を見つめるその瞳は闇夜を連想させ、やがて、二人は踵を返す。

 あとに残ったのは術師の灰と。

 静かに上げられた、宣戦布告の狼煙。







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