2ー13
黙って聞いていたレジーナが目線をマグナからアッシュに向けていた。その表情からして、隊長の言葉に納得していないようにも見える。
「自分の命を優先して逃げたことは別に恥ずかしいことでも何でもない。だから処分なんてしないですよ」
納得していないのはマグナも同じだ。
見捨てたのはアッシュの実の妹だというのに、甘いにも程がある。
「なら何故、私はここに」
「呼び出したのは別の理由でして。とりあえずマグナさんは今日から俺の仕事についてきてもらいます」
「…………は?」
「急で申し訳ない。少ししたら魔物の討伐に向かうので準備を」
「ちょっ、ちょっと待ってください! どうして私が隊長と仕事を!?」
訳が分からないと大声をあげたマグナに「隊の為です」とアッシュは言い返す。
「貴方がいると隊の士気が下がる。マグナさんが常日頃、仲間に対して暴言を吐いているという情報を聞きました」
「なっ。そ、それは」
「複数人から聞いている。事実ですか?」
「…………事実です」
昨日の逃走が切っ掛けで、自身に対しての不満が続々とアッシュに流れたのだろうとマグナは察した。
アッシュの表情から、笑みが消える。
「我々の敵は人間に害を齎す魔物であり、法に背き罪を犯す魔術師だ。決して、傍にいる仲間ではない。ーーその性根を叩き直してやる。分かったなら下がれ」
冷たく言い放つアッシュに従いマグナは背中を向ける。屈辱に塗れた表情で場を離れ、再び、隊員からの注目を集めたマグナ。私を見るな、と怒鳴りそうなところを抑えたのは、アッシュの目を思い出したからだ。「くそ」と呟き、壁際の椅子に腰を掛ける。
敵は、仲間ではない。
そんなこと、分かっていた筈なのに。
床を見つめている間、幾つもの足音が通り過ぎていく。項垂れるマグナに、声を掛けるものは誰もいなかった。
「甘くありませんか?」
非難の目を向けるレジーナに「そうでもないよ」と一息吐くアッシュ。目の下の隈が彼の疲れを現していた。
「隊の為と隊長は仰ってましたが、正確には隊とマグナの為でしょう?」
「そうだね」
あっさりと認めるアッシュに呆れた表情のレジーナ。テーブルに置いていた紅茶に手をつけて、アッシュが言葉を返す。
「昨日の件が知れ渡ったいま、マグナさんがいつも通りに過ごすのは難しくなった。人を傷付けていた彼が今度は傷付けられる立場になった」
「自業自得でしょう。仲間を置いて逃げた腑抜けですよ? 責められて当然です」
「はっきり言うね、レジーナさん。俺はさっきも言った通り逃げたことに関してはどうも思ってない」
「それはヒバナが生きていたからでしょう? 死んでも同じこと言えますか」
「……痛いところ突くなあ。確かにヒバナが殺されていたら、また違った対応をとっていたかもしれない。怒り狂って正気を失っていたかもしれない。でもヒバナは生きていて、マグナさんは今後も必要な戦力だ。人材が不足しているいまは特にね」
紅茶を飲み干しカップをテーブルに置いたアッシュが次に手に取ったのは、調査班から届いた報告書だ。
「骸龍を殺した術師は、まだ見付かっていないのか」
「そうみたいですね。ヒバナは気を失っていたから顔を覚えていないの一点張り。飛竜の操縦手にもあたりましたが、客の信用に関わるから一切言えないとのことです」




