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でも、と少年は続ける。
「助けたことに後悔はない。もし教団の術師がまた襲われていても俺は同じことをする。……悪いな、カナメ。故郷に帰るまでの時間を延ばしてしまって」
「ううん、気にしないで。ーーマーリンは優しいんだね。誰かが困っていたら、きっと放っておけない性格だ」
「……いや、そんなことない。ただの気紛れだ」
「その気紛れで、わたしは救われたよ」
横に並んで歩いていたカナメが優しい笑みを浮かべる。何も言い返せない少年は、指で頬をかき、視線を逸らす。
「それはそれとして」
「うん?」
「胸の大きい子は好きなの?」
「…………」
じっとマーリンを睨むカナメ。
どうやら助かっていなかったらしい。
宿に着くまでの間、彼等は気付かずにすれ違う。
少年の目的、その術師に。
アメリア平原で骸龍が討伐されてから翌日、マグナ・カラコフは自身が所属する十二番隊の隊長から呼び出しを受けていた。どうして呼ばれたのか、マグナには心当たりしかない。
「失礼いたします」
入室して直ぐさま部屋の奥で腰をかけていたアッシュ・クロフォードと目が合う。妹と同じ茶色の髪。精悍な顔付きのアッシュは若くして教団の隊長になった天才だ。そんな彼をマグナは嫌っていた。一回り歳の離れた青年、それも僅か数年で隊長の座に就いたアッシュをただただ妬み、疎ましく思っていた。
アッシュの傍には副隊長のレジーナ女史が立っていてマグナをじっと睨んでいる。長い金の前髪から覗くその瞳は、まるで虫けらを見るような眼差しで、ここに来るまで他の隊員からもそれは向けられていた。
「お疲れ様です、マグナさん」
朗らかな声、にこやかな表情。
それがマグナにはたまらなく不気味に映る。
準一級に該当する魔物討伐のために拠点を離れていたアッシュが、まさかもう戻ってきていたとはマグナには予想外だった。
「……昨日の件についてですが弁明の余地もございません。いかなる処分もお受けいたします」
半ば投げやりになっていたマグナ。
昨日の失態からして、おそらく解雇が妥当だとマグナは判断していた。
「処分? いやいや、マグナさん。そんなものはないですよ」
「……え?」
「引率する立場でありながら、魔物を前に仲間を置いて逃走した。教団の術師としてはあるまじき行為だ。でも実際、魔物を前にして正しい行動を起こせる人間なんてのは限られてる」




