2ー10
「魔物のことだが、俺がやったことは出来るだけ伏せてくれないか」
「え? で、でも、報酬出ますよ」
「必要ない。頼めるか?」
「……分かりました」
「悪いな。追及が厳しかったら正直に吐いてくれて構わな、」
「絶対に言いません」
ヒバナの言葉に「そうか」と言うマーリン。表情は見えないが口元に笑みが浮かんでいる気がした。
「……マーリン君」
「ん?」
「マーリン君は、強いですね」
「見る目あるなヒバナ。もっと褒めてくれていいぞ?」
ふふーん、と得意気な顔をしてヒバナの方へ顔を向けたマーリン。
可愛い。
本当に天使じゃないのか? この子。
「すごいですよ、マーリン君は。それに比べて私は、何もできなくて」
子供を前に何で弱音を吐いているのだろうか。話題を変えようとしたとき「何を言う」と彼が返事をした。
「仲間に置いてかれて絶望的な状況でもあの魔物に一人で抗った。ヒバナが魔術を使ってなかったら俺は気付いてないし、そもそも間に合わなかった。お前もすごいよヒバナ。もっと自分を褒めてやれ」
彼の言葉でまた泣きそうになるのをぐっと堪える。
「……うん。ありがとう、マーリン君」
あの魔物に敵いはしなかった。それでもいまこうして生きているのは恐怖と向き合い戦うことを選んだから。助けてくれた少年がその勇気を褒めてくれたことが、ヒバナには何よりも嬉しかった。
操縦手が「見えてきたぞ」と言ってヒバナが地上を見下ろす。教団の拠点が近付いてきたところで焦りが出てきた。命を助けてもらったのに何もお礼ができていない、それにもう二度とこの少年には会えないかもしれない。
「あの! 何か困ってることとかないですか? 私、何でも力になるので」
「困ってることか。ーーそうだ、ヒバナ。呪いに強い魔術師を知らないか?」
「呪い……」
「ああ。魔術が絡んだ傷を治せるような、腕のいい術師。いないか?」
「呪いに強いかどうかは分からないんですけど、治すことで有名な魔術師ならオリヴィエさんですね」
「オリヴィエ……」
「はい。オリヴィエ・クレセント術師。教団が何度もスカウトしてるんですけど、何度も断られてます」
「何処にいるか分かるか?」
「……ごめんなさい、何処にいるかまでは。彼女、一つの場所に留まることがそんなにないらしいです」
「充分な情報だ。ありがとうヒバナ」
少しでも言葉を交わしていたかったのに別れはもう目の前で。目指していた地上にゆっくりと降りる飛竜。聞くところによると、彼はこれからシルバに向かうらしい。
名残惜しいが、飛竜から降りて頭を下げるヒバナ。
「二人とも本当にありがとうございました。それと、これを」
お金を支払おうとするヒバナを操縦手が断る。
「いいよいいよ、ついでに送っただけだ」
「でも」
「礼なら坊主にしな。って言っても坊主は断るだろうけど」
「ああ、不要だ。それに礼ならあの情報で足りてる」




