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「やはりエルドラの魔物は大きいな」
幻聴ではなかった声の方へ振り返る。
ゆっくりとした足取りでこちらに近付いてくるのはーー信じられないことにヒバナよりも背丈が小さい子供だった。しろがねの髪に青空を思わせる綺麗な瞳、汚れのない白を基調とした衣服。どこか気品のある佇まいは大人びて見えた。
骸龍に背を向けて走り出したとき、前方に人影はなかった筈だ。いつ、どうやってここに現れたのかヒバナには分からない。
ただ結果としてあるのは。
「おい、無事か?」
助けられたという事実と、まだ、生きているということ。
彼の言葉に頷いた途端、視界が揺らぐ。
一度は諦めたのに、呼吸ができることがただ嬉しくて。安心しきったことで嗚咽を漏らすヒバナ。その様子を何も言わずに傍にいてくれた少年を、まるで天使のようだとヒバナは思った。
「礼はいらん」
「でも」
「今後この話禁止」
「……はい」
あれから直ぐに空から二匹の飛竜が地上に降りてきた。骸龍の死体を前にヒバナと少年を除いた三人は驚いていて何が何だか分からない様子だった。泣き止み落ち着いたところで事の顛末を話すと、仲間と馬に見放されたヒバナを拠点まで送ると操縦手が口にしてくれて、現在、そのご厚意に甘えてヒバナは空の上で飛竜に座っている。
覆い被さるような形でヒバナの前には少年ーーマーリンが座っていた。本来なら一人分の座席で体が触れる距離に二人はいる。自身の窮地を救ってくれた恩人を前に、ヒバナは落ち着きが取り戻せない。何かお礼をしたい、その気持ちだけが前のめりになっていた。
「しかし本当に驚いたぜ、坊主には」
「ああ、びっくりさせて悪かった」
「いや、凄いことをしたからそれはいいんだが、せめて一言欲しかったぜ? いきなり飛び降りたときは心臓止まるかと思ったよ」
「次からは気をつけるよ」
「次があってたまるかよ」
マーリンと操縦手の楽しそうな会話で、今更ながらに気付く。
いきなり飛び降りたーー術式は飛竜の上でではなく降りている最中に組み立てたのだろうか? 高所から飛び降りて平常心を保ち、且つ、地面に落下するまでの間に複雑な計算式を解く。そんなこと人間にできるのか?
いや、そもそも。
彼はどうやって、こんな空の上から骸龍と自身の位置を把握できたのだろう?
「ヒバナ」
尽きない疑問に頭が焼かれそうになったところでマーリンに名前を呼ばれる。飛竜に乗る前、互いに自己紹介を済ませていた。




