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少年のマーリン  作者: 相澤カナデ
第2話 少年と飛竜

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19/71

2ー8



 魔術が発動できなくて、教団を辞めろとまで言われて、そして最期にはひとりぼっち。それでもーーかつて兄の前で誓ったことを思い出す。

 ここで死ぬと分かっていても。

 この道を選んだことだけは絶対に後悔したくない。


「すぅー」


 骸龍が油断している隙に息を整える。

 ゆっくりと体勢を立て直す。

 イメージするのは暗闇の中で揺らめく炎。

 丁寧に術式を脳内で組み立てる。

 祈りはしない。

 誰も助けには来ない。

 もう失敗はできない。

 震える右の五指を地面に突き刺し魔力を流す。


「ーーおいで、狐狐(ココ)!」


 脳内で描かれた法陣が地面に映し出され、そこから出てきたのは狐を象った二匹の焔。顕現がうまくいったことに安心感はない、この化物を殺せる手札がいまのヒバナにはないからだ。狙いは逃げるための時間稼ぎ、その一点のみ。

 指先を骸龍に向ける。


「行け!」


 術者の意に従い炎の狐が空を駆ける。二匹が向かう先は両の眼窩。結果を待たずして、ヒバナは骸龍に背を向けて走り出した。

 走っている最中も狐狐の術式を脳内で組み立てる。そして、骸龍の咆哮がアメリア平原に響き渡った直後、背後から迫ってきているのが振り返らずとも分かった。即座に屈み、前方の地面へ掌を置いたヒバナ。座ったまま振り返り、召喚した狐狐に再び「行け」と命令を下す。

 そうして直撃の手前で開かれた大口。

 その鋭い牙が狐狐を喰らい魔術を無に帰す。

 何事もなかったかのように骸龍が咆哮したとき、ヒバナの動きは完全に止まった。高位の魔物であればあるほど魔術に耐性がある。そんなことは分かっていた、だがここまで無意味なものだとは思っていなかった。

 術式を組み立てることも、声を発することも、足が動くことも。折れてしまった心では何一つできない。

 できることはやった。

 ただ力が足りなかっただけだ。

 目の前に迫った骸龍の口が大きく開かれる。

 死にたくない。

 受け入れ難い現実にヒバナは目を閉じーー




風斬(かざきり)




 どこか幼い声が、ヒバナの背後から聞こえた。


「え?」


 閉じていた目を開ける。

 鋭い牙がヒバナの目と鼻の先に迫っていて、口を開けたまま動きを止めていた。そして、骨の貌、その真ん中に縦の線が入った次の瞬間、骸龍の身体が頭から尾の先まで真っ二つに裂かれる。



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