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ヒバナ・クロフォードの両親は魔力を持っていたけれども、それを活かすような仕事には就かず料理店を営んでいた。父と母の仕事を小さい頃から兄のアッシュと一緒に手伝っていたヒバナ。大人になったら跡を継ぐのだろうなと漠然としていた考えを持っていたヒバナだったが、兄の一言でその考えが変わる。
「教団に入るよ」
学校の帰り道で鉢合わせた兄と歩いていたヒバナは突然の告白に戸惑う。
教団ーーエルドラ魔導教団。
エルドラ国の市民を魔物から防衛する為に作られた魔術師の組織。各地に拠点があり、教団の最高責任者は国家元首でもある。
「何で、急に」
「いや、前から思ってたんだ。先生や周りの人達も入団を勧めてくれてる」
兄の才能をヒバナは知っている。兄の魔術が秀でていることは学校中に知れ渡っていたから。
「お父さんとお母さんには」
「昨日話してる。最初は反対されたけど、何とか話はついたよ」
意外だった。両親は断固として反対するものだと思っていたからだ。正直ヒバナは反対だった。教団の術師が殉職することはよく耳にしていたから。そのことが過って両親も反対したのだと思う。
兄の横顔を見る。
入団を決意したその表情を前にして、ヒバナは兄の邪魔にはなりたくないと思ってしまった。
「お兄ちゃんは魔物が怖くないの?」
「怖いさ」
「それなら何で」
「守りたい人がいるからだ」
アッシュの言葉は真っ直ぐだった。
本心からの言葉だと誰でも分かる。
「教団に入れば嫌でも魔物と遭遇する。その恐怖と向き合って、乗り越えて、俺は強くなりたいんだ」
頭に手を置かれ、優しく撫でられるヒバナ。
「もしヒバナが魔物に襲われたら、兄ちゃんが助けてやるからな。父さんと母さんも、町の皆も、全部守れるくらい強くなってやる」
そのときの光景をヒバナは一生忘れないでいる。言葉の一つ一つが眩いばかりで、横に並んで歩いてる筈なのに兄は遠いところにいた。
「私も」
兄に追いつきたい。
「私も教団に入る」
その背中が見えなくならないように。
「私も強くなるよ、お兄ちゃんと一緒に」
なんて馬鹿な夢。
だからここで死ぬんだ。
現実に引き戻されるヒバナ。尻餅をついた餌を前に骨の龍は未だ襲いかかってこない。いつでも殺せるというその舐めた態度に彼女は何もできないでいた。
動けない。
怖い、逃げたい、帰りたい。
まだ、死にたくない。
こんな、なにもないところで。




