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「僕ちゃーん。飛竜に乗るのは初めてかなー?」
「……僕ちゃん?」
案内してくれた女性がマーリンにそう言うと横にいたカナメが吹き出す。
「そう、僕ちゃん。この子は大人しいからね、怖くないよ。だから安心して乗ってね」
カナメが笑い声を我慢しているのは肩の震えで分かった。じーっと睨むマーリンに気付いて「ごめん」と手を合わせて舌を出す。口元の笑みが消えていないことに不満はあったが、そのまま受付の女性と話を済ませ、カナメと同時に飛竜に乗りこむ。
自身の前に座っていたのは恰幅の良い男性。振り返った顔はなかなかの強面で、頬に大きな引っ掻き傷の痕が目立つ。
「よろしくな坊主。しっかり捕まってろよ?」
「分かった」
「行き先はシルバでいいんだな?」
男の言葉に頷くマーリン。
アイリスに辿り着くまでは飛竜の乗り換えが何度も必要だ。一先ずの目的地は、魔道具の生産数で有名な街シルバに向かうことにしていた。
乗っている飛竜が鳴き声をあげると、カナメの乗っていた飛竜が返事をするかのように吼える。そして、同時に大きく羽ばたく二匹の竜。地上から離れ空へのぼっていく浮遊感が懐かしいと彼は感じていた。
「もうすぐ安定するからな。しっかり握ってろよ!」
上昇を続ける飛竜。人間に合わせて勢いを抑えているのが目に見えて分かる。魔物との共存が信じられないと言っていたカナメに彼は共感を覚えていた。ブリタニアで言う龍は災害そのもので、いまこうして乗っている飛竜とは性質がかけ離れ過ぎている。
人体にのしかかる重力に耐え上昇が止まる。ゆったりと上下に動く翼、揺れが少ないところを見るとどうやら当たりのようだ。
「手綱、ちゃんと握ってるか」
「握ってる。揺れも少ないし良い腕してるよ」
「はは! まあな。この道二十年、俺より飛竜の扱いに慣れてる奴はそうそういないぞ。坊主ラッキーだったな」
陽気に笑う操縦士。
気づけばウルルはもう見えなくなっていた。
「坊主はどこから来たんだい」
「ブリタニア」
「ブリタニア? 随分と遠くから来たな。何だ、お姉ちゃんと一緒に親戚の家でも行くのかい」
「まあ、そんなところ」
適当に誤魔化して景色を眺める。
海から離れ、遠くに見える建造物の群れ。この大陸の何処かに呪いを解く手掛かりが果たして存在するのか。先のことは誰にも分からないが、この足を止めることはない、元の姿に戻るまでは。
ゆったりとした時間が流れる中、飛竜が暫く移動したところで少年だけが気付く。
二つの魔力、その対立にーー




