2ー5
「いまでも信じられないよ。竜の上に乗るなんて」
竜を操る術師が乗客を送ってくれる業務はエルドラの至る所にあると言う。
そもそも魔物と人間が共存していること自体カナメには信じられない話だ。ブリタニアにとって魔物の存在は有害以外の何物でもなく、エルドラみたいに有益を齎すことはない。殺していい魔物と、殺してはいけない魔物。エルドラの法に触れないよう彼女は図書館で予習を済ませている。
「エルドラでは一般的な移動方法だな。教団とギルドの術師もよく利用してる」
「マーリンは乗ったことあるの?」
「何度かな。気性が荒い飛竜に乗ったときはまあ酔うぞ」
「不安だなー」
「当たりを祈るばかりだな」
「落ちそうになることはないの?」
「背中の手綱をしっかり握っておけば大丈夫だ。それにもし落ちたとしても俺が助けるよ」
櫛を持っていた手が止まる。
カナメの口元に笑みが浮かぶ。
「それなら安心だ。はい、終わりましたよ」
「ありがとうカナメ」
「どういたしまして」
窓から吹く風に銀の髪が揺らめく。
飛竜に乗るのは昼時だ。それまでに借りた本の返却を済ませて朝食をとろうと口にしたマーリンにカナメは頷く。
片付けをしてから部屋を跡にした二人。
折角の空の旅だ。
いまこのときを楽しもうと、小さな背中を追ってカナメは歩き出した。
『マーリンは飛竜に乗ったことあるかい』
ない。
『それは勿体ない。飛竜から見える街並みは目を奪われるほど綺麗だよ』
そうか。
『そうだよ。無愛想だなー、君は』
黙れ。
『いつか現れるといいね。君を笑顔にしてくれるひとが』
余計なお世話だ。
ヴォーティガーン。
「マーリン? 呼ばれてるよ、行こ」
「……ああ、すまない。ぼーっとしてた」
回想から目を醒まして、待合室の椅子から立ち上がる。受け付けのところまで足を運ぶ二人。
「はいはーい! 予約していたカナメ様ですね、ご案内しまーす!」
溌剌とした女性の案内を受けて、それぞれが乗る飛竜の前に二人は立つ。カナメを見れば飛竜の大きさに驚いていて、口を半開きにしていた。
飛竜と目が合う少年。
緑黄色の鱗、蛇を思わせる縦長の瞳孔。人の手によってしっかり洗われているのが分かるくらい清潔な身体と迫力のある大きな翼。飛竜は落ち着いた様子でじっとマーリンの姿を見ていた。




