2ー3
「マーリン? 起きてるー?」
木製の扉を優しくノックするカナメ。扉の奥から「んー」と間延びした声が聞こえる。
「入るよー?」
「んー」
扉を開ける。
カーテンが閉められた薄暗い部屋の中、ベッドで半身を起こしていたマーリンが視界に入る。何かの実験に失敗したのかと疑う程ぼさぼさな銀髪。起きたばかりなのか瞑ったままの両目。あまりに普段の様子とはかけ離れていて、あまりにも可愛いとカナメは思う。
「おはよう、マーリン」
「……はよう」
覇気のない声。
やっぱり可愛い。
そう言うと怒られそうな気がして思うだけに留めておいたカナメは部屋のカーテンと窓を開ける。差し込む朝日と潮風の匂い。ブリタニアを離れ、港町ウルルに着いてから二日が経過していた。
「髪ぼさぼさだよ。梳かすからじっとしてて」
枕をどかしてベッドの上に乗り込むカナメ。少年の背後に回り、用意していた櫛を使って銀の髪を梳かす。
「……カナメさんや」
「おじいちゃん?」
「気持ちは嬉しいのですが、ここまで世話しなくても」
「わたしが好きでやってるからいいの」
「そうですかー」
「そうですよー」
まだ寝惚けているのが明らかな口調にカナメは笑う。ここまでの世話と彼は言うけれども全くもって足りないくらいだ。
ブリタニアを出る前日、彼と医師の三人で母のところへ向かったカナメ。道中、馬車の荷台で彼女ーーセシリア・シェリントンは笑いながらカナメに沢山話しかけてくれた。いまにして思えば不安を和らげてくれていたのだと分かる。
『カナメちゃん大変だぞー、こいつと一緒にいるのは』
『こいつクソ生意気でしょ? 魔術の腕があるから尚更。だから嫌われてるんだよね、私に』
『子供になってからよく喋るようになったよね? 頼むからそのままでいてくれないかな? カナメちゃんもそう思うよね?』
セシリアが喋る度にマーリンが不機嫌になっていくのが目に見えて面白かったとカナメは思い返す。
そして、それまで明るく喋っていた彼女が真剣な表情で母を診て『大丈夫、治るよ』と言ったとき、どれだけ安心しただろうか。どうしても込み上げるものがあって、カナメはサリアと一緒に泣いた。それを見た母も涙を流し、セシリアとマーリンは顔を見合わせて微笑んでいた。
エルドラ国へ連れて行くことをしっかり話しておきたいとマーリンがカナメの母と話し合っている間、セシリアに外へ連れ出されたカナメ。
『マーリンのこと頼んだよ』
『本当は私が治してやりたかったんだが、ブリタニアでは見慣れない術式でね。エルドラに行けば解決できると思うが』
『あいつ、常に強がってるけど全盛の一割も魔力ないらしいから。困ったときは助けてあげて。ーー二人の旅路を祈ってる』




