2ー1
「この任務を終えたら教団を辞めろ、ヒバナ・クロフォード」
雲の切れ間から日差しが見えるアメリア平原にて、それぞれの馬に跨った術師が三人。その先頭を歩いていたマグナ・カラコフから掛けられた突然の言葉にヒバナは何も言えないでいた。つい先程犯した失態を見れば言われて当然だとヒバナ自身は思っている。
「はっきり言おう、貴様は役立たずだ」
「ちょ、ちょっとマグナさん」
ヒバナの横にいたアランが慌てた様子でマグナの横に並ぶ。
「不味いですよ、アッシュ隊長に知られたら」
「構わない、私は事実を言ってるだけだ。砂竜如きを前にして魔術が発動できないなんて前代未聞の話だろう。ふざけているにも程がある」
砂竜。
砂漠地帯に生息している魔物であり、見た目はモグラそのもの。明確に違うのは体のサイズだ。体長は二メートルから四メートル程。地中にいる際、自身の上を通った生物を喰らうために顔を出す。地中を泳ぐように移動するその様から土の魚とも呼ばれている。
その砂漠にいる筈の砂竜が何故かアメリア平原に流れてきていた。異常事態を察知したエルドラ魔導教団は三人の魔術師を派遣し、先刻、数体の砂竜と遭遇。そこでヒバナは魔術が発動できず、討伐は二人に任せきりになってしまった。
「……ごめんなさい」
「申し訳ないと思っているならもう辞めろ。人には向き不向きがある、貴様は後者だ。明らかにこの仕事には向いていない。術師が魔物を畏れるなどあってはならん、絶対にな」
正論だと思うヒバナ。ため息をわざとらしくこぼすマグナの顔を彼女は見ることができない。
「仕事なんていくらでもある。術師を続けたいならギルドの簡単な依頼でもやればいい。高給取りがお望みなら娼館で働け。ーーああ、いまの仕事よりは稼げると思うぞ? その体なら」
下卑た笑みを浮かべるマグナの表情をヒバナは知らない。揺らぐ視界の中、声が洩れそうになるのを必死でおさえる。
魔術は精神に大きく左右される。平常心が魔術の原理であり、不安定な精神では魔術は発動できない。
ヒバナが魔術をコントロールできなくなったのには原因がある。先月の任務で同僚が魔物に殺されたのを目にしてからだ。魔物を前にするとその時の光景がフラッシュバックし動悸が激しくなる。
その状態に陥っても魔術の発動は何とか出来ていたヒバナだったが威力は以前よりも明らかに落ち、そして今回に至っては発動すらできず、ただ棒立ちで事の成り行きを見ているだけだった。




