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キャメロット城の地下、一部の人間しか立ち入ることが許されていない魔導書の管理室。床に散乱した書物に囲まれた少年は手にとっていた書物を閉じ、顔をあげる。
「やはりここにはないか」
どこか艶のある高い声。
少し癖っ毛のある乱れた銀髪。
澄んだ青の瞳に端正な顔立ち。
純白のローブを纏った少年はここ数日、この部屋で魔導書を読み漁っていた。が、目的の文献を見つけることは叶わなかった。
「マーリン」
背後の声に目を向けることなく少年ーーマーリンは棚に本を戻しながら言葉を返す。
「できたのか?」
「できたよ。ここに置いとく」
「助かるよ」
マーリンが頼んでいたものは自身の身分を証明する書類と魔術師の階級を示す首飾りだ。ブリタニアに於いて銅の色をしたそれは、魔術師の中では一番下の階級を意味する。
「もう一度訊くけど、本当に円卓を降りるのか?」
「ああ、もう決めたことだ」
マーリンの言葉に対して背後に立つ人物は納得していない様子だった。
「こんなものまで用意して。誰かが君に文句を言ったのかい?」
「言わなくても不満はあるだろう、いまの俺が円卓に居座るのはな。降りるのは当然だ」
「当然じゃないだろう。君がどれだけこの国に貢献してきたのか皆分かってる。マーリン。どうしてそんな自分を卑下する?」
「卑下? 馬鹿言え。俺を誰だと思ってる」
自信に満ちた表情でマーリンが振り向く。その目に映ったのは円卓の魔術師を示す金の首飾りと、遣る瀬無い表情をした同胞の姿だった。
「断言する。俺より強い魔術師などこの世にいない。いまもその事実は変わらん。だが子供の俺がそう言ったところで誰も納得はしないだろう? 面倒事を避けるには俺がいなくなるのが一番なんだよ」
それに、とマーリンは付け加える。
「もう、仲間同士で争うのはごめんだ」
「…………」
「そんな顔するな。この呪いも直ぐに治す。それまでは任せた、アーサー」
真剣な眼差しをしたマーリンと向き合うアーサー。僅かな沈黙の後、分かったと、アーサーは応えた。
「任されたよ、マーリン。円卓の誇りに懸けて、この国を、民を。必ず守り通すと誓うよ」
「ああ。お前なら安心だ」
そうした遣り取りを交わしてマーリンの元からアーサーは去った。少し高い位置にある棚に背を伸ばして本を戻していると、上手く収まらずに本を落としてしまう。
「まったく、ヴォーティガーンめ」
落とした本を拾い、ついた埃を払う。
その名前はマーリンを少年にした魔術師であり、そして、いまはもうこの世にいない親友の名前だ。
「とんでもないことをしてくれたな」
言葉とは裏腹に、その声はどこか優しさを帯びていた。




