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二人で輝くとき編2(二人で輝くとき)

会見まで数日、緊張と不安が渉の中で渦巻いていた。

そんな折、事務所近くのカフェで一人の記者が彼に接触してきた。

記者はスーツの胸ポケットから名刺を取り出し、丁寧に自己紹介しながらも、その視線は冷静で鋭い。


「久住さん、少しだけお時間をいただけませんか?」

「……何でしょうか。」

警戒する渉に、記者は直球の言葉を投げかける。

「あなたが高宮裕奈さんのそばにいる理由、ぜひ記事にさせてもらえませんか?」


その言葉に、渉は身を強張らせた。だが、記者は容赦なく続ける。

「彼女を支えたいというのが理由だと聞いていますが、それだけですか? 恋愛感情が絡んでいるのではないかと。」

挑発的な響きを含んだ言葉に、渉の心はざわついた。


「彼女を支えたいからです。それ以上でも、それ以下でもありません。」

そう答えた渉だったが、記者はさらに追及の手を伸ばす。

「それだけですか? 本当に、純粋にそれだけですか? 高宮さんに特別な感情がないと断言できますか?」


渉は一瞬、言葉を詰まらせた。


だが、すぐに深呼吸をして、自分の気持ちを整理する。そして、静かだが力強い声で答えた。

「確かに、俺は高宮さんを特別に思っています。それは彼女が人として素晴らしいからです。でも、俺の感情は彼女を支えるという行動に私情を持ち込むためのものじゃない。それが全てです。」


記者は一瞬黙り込んだが、再び質問をしようと口を開く。

しかし、渉は毅然とした態度でそれを遮った。

「これ以上の質問にはお答えできません。俺は、彼女を守るためにここにいる。それ以上でも、それ以下でもありません。」


そう言い切ると、渉はその場を去った。足早に歩く中で、心の奥底には疑問が浮かんでいた。


自分は本当に裕奈を守れているのか。このままで良いのだろうか――。


自分の行動と覚悟を改めて問い直す必要があると渉は思い始めていた。





会見の前日、渉は一人では抱えきれない重圧に耐えきれず、小沢を呼び出した。


大学時代から自分をよく知る小沢なら、今の自分を正確に理解してくれると信じていたからだ。


待ち合わせ場所の小さなバーで、渉は普段飲まないウイスキーを口にしていた。

グラスを握る手は少し震えている。


「お前がそんなしょぼくれた顔してるの、初めて会った時以来だな。」

小沢がカウンターに腰掛けながら皮肉っぽく言った。


渉は苦笑いを浮かべたが、すぐに真剣な表情に戻った。


「小沢……俺、彼女が…裕奈が好きなんだ。」


その言葉に、小沢は少しだけ驚いたように眉を上げたが、すぐに肩をすくめて言った。


「やっと自覚したか。まあ、見てりゃ分かるけどな。」

「分かる?」

「お前、裕奈さんが頑張ってる姿を見るたびに、自分ももっと力になりたいって顔してただろ? 俺はそういうのに疎いけど、お前の気持ちくらいは察するさ。」


渉は視線を落としながら、自嘲するように笑った。

「でも、好きなだけじゃ足りないんだ。彼女を守りたいのに、俺にはその力がない……」


渉は一呼吸置いて、声を絞り出した。

「俺は裕奈を……支え切れるのか分からない。」


「裕奈は、俺なんかとは違って本当にすごいんだよ。才能もあって、努力もして、みんなに愛されてて……だけど、その分だけリスクも大きい。今回のスキャンダルだって、俺が中途半端な気持ちで近づいたせいで起きたんだ。」


小沢は渉をじっと見つめていた。

普段、他人に愚痴や弱音を漏らすことのない彼が、こうして心の底をさらけ出しているのを聞くのは珍しいことだった。


その言葉を聞いた小沢は、しばらく沈黙していたが、ふと口を開いた。


「……なあ、渉。」

「……何だよ。」

「お前、中学時代にどんな約束をしたんだっけ?」


渉はハッと顔を上げ、小沢を見つめた。


「……え?」

「忘れたとは言わせないぞ。お前が最近思い出したと言って俺に教えてくれた約束だよ。」


渉は唇を噛み、しばらく考え込むように俯いた。

やがて、小さな声で答えた。


「……俺は、輝いて凄い人になって……裕奈を支えるって……言った。」


その言葉が口からこぼれた瞬間、渉自身も思い出していた。あの頃の気持ちを。


小沢はにやりと笑い、鋭い視線を渉に向けた。

「そうだろ? “輝いて凄い人になって、裕奈さんを支える”ってな。」


小沢は一歩、渉に近づき、まっすぐに言葉を投げる。

「なあ、渉。国民の注目を浴びて会見に立つなんて、それだけで十分に“凄い人”じゃないのか。」


渉が目を見開く。


「全国の視線と注目を浴びて、裕奈さんを支える責任を背負って立つ。そんなの、中々できるもんじゃない。だからさ、お前はもう“凄い人”なんだよ。」


小沢は軽く肩をすくめ、言葉を続けた。


「後は――横に立つ裕奈さんを支えるだけだ。それがお前と裕奈さんが交わした約束ーー“二人で輝くとき”ーーじゃないのか?」


その瞬間、渉の中で何かが弾けた。


脳裏に浮かぶのは、中学時代。

夢を語り合った日々。

そして、裕奈の隣で“支える”と誓ったあの時の気持ち。


「で、だ。」

小沢はグラスを置いて渉を正面から見つめた。


「お前は裕奈さんが好きなんだろ? だったら悩む前に決めろ。自分の人生を賭けてでも、彼女を支えるって。」


渉は目を見開いた。


「人生を……賭ける?」

「ああ。彼女を支えたいって本気で思ってんなら、遠慮してる場合じゃない。資格があるとかないとか、そんなのは関係ない。お前が覚悟を持つかどうか、それだけだ。」


「支えられるかどうかなんて、支えようとするやつにしか分からないんだよ。それを躊躇するってことは、結局お前が自分を信じてないだけだ。」


渉は驚いたように顔を上げ、小沢の目を見た。

その目にはいつもの皮肉な色もなく、真剣な思いだけが込められていた。


小沢は少しだけ優しい声になった。

「裕奈さんは、きっとそんなお前を選んだんだろ? お前が自分をどう思おうと、彼女はお前を信じてる。それが何よりの証明じゃないのか。」


「……人生を賭ける、か。」

「そうだ。お前が選ばないなら、裕奈さんは誰かに取られる。俺たちみたいな凡人には、あの人の隣に立つ資格なんてないと思うかもしれない。でも、それを決めるのはお前じゃない。裕奈さんが、お前を選ぶかどうかだ。」


小沢は渉の言葉を遮るように声を強めた。

「お前が裕奈さんを好きなら、迷うな。資格とか、そんなことはどうでもいい。大事なのは、覚悟を持つことだろ。」


渉は息をのんだ。


小沢の言葉はシンプルだが、重みがあった。

その鋭い眼差しに渉は言葉を失い、しばらく何も言えなかった。


渉はしばらく黙り込んでいたが、やがて深く息を吸った。

「……そうだな。俺、ようやく覚悟が決まったよ。裕奈を支えるって決める。自分がどうとか、もうどうでもいい。」


小沢は薄く笑いながらグラスを手に取った。

「それでいいんだよ。お前は迷ったり悩んだりしてる暇なんかない。明日の会見、堂々と胸を張って彼女の隣に立て。今こそーー裕奈さんとの約束を果たせよ。」


渉は小沢の言葉に頷き、グラスを持ち上げた。

その目には、迷いが少しずつ消え、覚悟が宿り始めていた。


「ありがとう、小沢。お前のおかげで決心がついた。」

「礼なんていらないさ。お前がグダグダ悩むのを見てるのが鬱陶しいだけだ。」


小沢はいつものように飄々とした態度を取りながらも、最後にこう付け加えた。


「明日、胸を張って堂々と彼女の隣に立てよ。それがお前と裕奈さんが交わした約束なんだろう?」


渉は深く頷き、小沢の言葉を胸に刻んだ。

会見の場で自分がどんな態度を取るべきか、ようやく答えが見えた気がした。


渉は少し笑って、「お前、意外と熱いやつだったんだな」と冗談を飛ばした。

小沢は「るっせ。」と笑う。


二人は最後に乾杯し、会見に向けての夜を静かに締めくくった。

タイトルの回収が出来ました。

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