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二人で輝くとき編1(二人の覚悟)

「マネージャー・久住渉と国民的女優・高宮裕奈の密会現場!」

翌日の朝刊には、二人の親密な様子を捉えた写真が大々的に掲載され、瞬く間にニュースは世間を駆け巡った。


SNSでは「二人が付き合っているのでは?」という憶測が飛び交い、裕奈のファンや業界関係者からは批判や失望の声が次々と上がった。

渉は無名の大学生でありながら、一夜にして時の人となってしまう。


さらに記事では、「裕奈が若手女優としてのプロ意識を欠いている」「担当と恋愛関係にあるのでは」という内容が強調され、写真をもとに過剰なストーリーが作り上げられていた。


SNSでもこの話題が拡散され、一部のユーザーたちは裕奈の振る舞いを批判する声を上げ始めた。


「こんなことで注目を浴びるなんて、失望した。」

「マネージャーと交際って、それで本気で女優やってるの?」


一方で、擁護する声や憶測を否定する声も少なからずあったが、悪意のあるコメントが目立つ状況だった。


裕奈の所属事務所でも、その記事は大きな問題となり、千鶴や松永社長を含む主要メンバーが対応に追われていた。


「これは……完全に捏造です! 裕奈と久住くんがそんな関係なわけがない。」


千鶴が声を張り上げたが、松永社長は静かにそれを制した。

「分かっている。ただ、世間がどう受け取るかが問題だ。即座に声明を出す必要がある。」


その頃、渉は自宅でその記事を目にし、息を呑んだ。


手が震えるのを抑えながら、裕奈の名前が絡んだ事態に自分の責任を強く感じていた。

「俺のせいで……裕奈が。」


一方、裕奈も楽屋でその記事を知る。

手元のスマートフォンに表示された見出しと写真を見つめ、唇を噛み締めた。

「渉……。」


その場で千鶴から電話がかかってきたが、裕奈はすぐに出ることができなかった。


震える手で携帯を握りしめ、胸の奥がざわめく感覚に襲われていた。


スキャンダルが世間を騒がせ、事務所内はピリピリとした空気に包まれていた。

裕奈は渉から受け取ったノートを抱きしめながら、自室で静かに考えを巡らせていた。


ノートの最後のページには、渉の力強い言葉が記されていた。


「裕奈、俺は君を愛してる。これだけは、どんな未来が来ても絶対に変わらない。」


その言葉を何度も読み返し、裕奈は渉の想いを全身で受け止めた。そして決意する。


「渉を守るのは私。彼の名前まで傷つけられるわけにはいかない。」


翌日、裕奈は松永と千鶴に会見の場に立つ意志を伝えた。


裕奈は松永と千鶴を前に、はっきりと口を開いた。

「私が前に出て、誤解を解きます。」


その言葉に、松永の眉がひそめられた。

千鶴もすかさず口を挟む。

「裕奈、それは軽率すぎるわ。あなたが前に出たら、記者たちは容赦なくあなたを攻撃する。彼らが求めているのは真実なんかじゃない、ただ騒ぎを煽るための材料よ。」


松永も重々しく頷きながら言葉を続ける。

「千鶴の言う通りだ。この問題は時間が経てば収まる。事務所としても適切な対応を準備している。君が会見に出る必要はない。」


だが、裕奈はその二人の意見を遮るように毅然とした声で返した。

「お母さん、社長。私が逃げたら渉の名前まで傷つけられる。それだけは絶対に許せません。」


裕奈の瞳には強い決意が宿っていた。

「この問題は私自身のものです。渉はただ私を支えようとしてくれただけなのに、私のせいで彼の行動が誤解されるなんて耐えられません。だから、私が解決します。」


その言葉と目の強さに、千鶴も松永も一瞬言葉を失った。

娘であり、事務所の看板女優である裕奈が、ここまでの覚悟を見せたことに二人は驚きを隠せなかった。


沈黙の後、松永は静かにため息をついた。

「……分かった。君の意志がそこまで強いなら、私たちはそれを尊重しよう。ただし、条件がある。」


裕奈は松永を見つめ、きっぱりと頷いた。

「条件?」

「会見には、久住も同席させる。」

松永の目は厳しく、けれどどこか試すような色を帯びていた。

「これは君一人の問題ではない。久住も関わっている以上、彼自身の覚悟を世間に示すべきだ。そして、それが君を守るためにもなる。」


千鶴も複雑そうな顔をしながら口を開いた。

「本当に覚悟があるなら、久住くんと一緒に背負いなさい。それが、あなたたち二人にとっての試練になるわ。」


裕奈は一瞬考え込むように目を伏せたが、すぐに顔を上げた。その表情には迷いはなかった。

「分かりました。渉も同席してくれるなら、私は全力でこの場を乗り切ってみせます。」


その決意に、松永も千鶴もそれ以上反論を口にすることはなかった。




記事が世間を騒がせる中、渉は自室にこもり、頭を抱えていた。ネット上でも騒ぎが広がっている。

渉の心には、どうしてこんなことになってしまったのかという自責の念が渦巻いていた。


その時松永から事務所に来る様に連絡があった。


渉が事務所に到着すると、松永はすでにデスクに座り、彼を見据えていた。

室内には重苦しい空気が漂い、渉は喉の奥が乾くのを感じた。


「座れ。」

松永の低い声が響く。


渉は言われるがままに椅子に腰を下ろした。

机越しに向かい合った松永の表情は、いつになく険しい。


「渉、この件が彼女の立場にどれだけの影響を与えるか、本当に分かっているのか?」

冷静な口調だったが、その奥には鋭い怒りと失望が滲んでいた。


渉は拳を握りしめながら、静かに頷く。

「……はい。」


「なら、何故こうなった?」

松永の声が少し低くなる。


「お前は裕奈を守ると言ったな。マネージャーとして、彼女の支えになると決めたはずだ。それなのに、結果はどうだ?」


松永の視線が突き刺さる。


「今、お前がしていることは“守る”ことか? これは単なるプライベートの問題ではない。裕奈のキャリアを支える立場として、お前自身がどうこの状況に対処すべきかを考えろ。お前にそれができないなら、この世界で彼女を支える資格はない。」


鋭い言葉が容赦なく渉に降りかかる。


「……俺は、裕奈を傷つけるつもりなんて……」

思わず絞り出した渉の声に、松永は鼻を鳴らした。


「傷つけるつもりはなかった? そんなことは当たり前だ。だがな、渉……この世界は“つもり”ではどうにもならない。」


松永は机の上に手を置き、ゆっくりと渉を見据える。


「俺は前にお前に話したな。」

「……沙織さんのこと、ですね。」


渉がそう口にすると、松永は目を伏せ、静かに息を吐いた。


「そうだ。」


国民的女優だった沙織。絶頂期にスキャンダルが報じられ、その後、芸能界を去った女性。


そして、そのスキャンダルの相手こそ――松永自身だった。

「俺は、彼女を守りきれなかった。」


松永の声が、僅かに揺らぐ。


「お前は“彼女なら大丈夫”とでも思っているのかもしれないがな……人は、どれだけ強く見えても、傷つくときは傷つくんだ。裕奈だってそうだ。」

「……」

「俺はあのとき、どうすることもできなかった。結果、沙織は表舞台を去ることになった。お前も知っているだろう?」


渉は、沙織の名前をニュースで何度も見たことがある。

だが、彼女が芸能界を去ってから、その名前は急速に世間から消えていった。


「俺は――お前に同じ道を辿ってほしくないんだよ、渉。」


その言葉には、単なる怒りではなく、切実な願いが込められていた。


渉は奥歯を噛みしめ、深く頭を下げる。


「……すみません。」

「謝罪なんて求めていない。」

松永は鋭く言い放つ。


「俺が聞きたいのは、お前の“覚悟”だ。」

「覚悟……?」

「そうだ。お前は、本当に裕奈を支え続ける覚悟があるのか?」


松永はじっと渉を見つめる。

「今のままでは、お前は彼女の足枷になる。スキャンダルは消えない。疑惑の目は向けられ続ける。お前がそばにいることで、裕奈が今後どれほどの影響を受けるか……それをお前は耐えられるのか?」


渉の心臓が大きく鳴った。

「……俺は……」


「軽々しく“耐える”なんて言うなよ。」

松永の声音が一段と低くなる。


「俺だって、そう思っていたんだ。沙織となら、どんなことがあっても一緒に乗り越えられるってな。だが、現実は違った。俺たちは“芸能界”という大きな流れの中で、どうすることもできなかった。」


渉は拳を握りしめた。


「お前がこの世界で裕奈を支えるなら……“支える”とはどういうことか、もう一度考えろ。」


静かながらも、突きつけられる言葉の重さに、渉の肩は微かに震えた。


「俺はお前を信じたい。だが、それに値する覚悟を、お前は持っているのか?」

松永の問いかけに、渉は深く息を吸い込む。


(俺は……どうする? どうすればいい?)


沈黙が流れる。


やがて、渉はゆっくりと顔を上げ、真っ直ぐに松永を見つめた。

「……俺は、裕奈を支えたいです。」


それは、迷いのない言葉だった。


松永はじっと渉を見つめ、ゆっくりと口を開く。


「なら、答えを出せ。お前がどう裕奈を支えていくのか、どう“支える”のか。」

「……はい。」


渉は力強く頷いた。

松永はしばらく渉を見つめた後、深く息を吐いた。


「なら、裕奈の会見に同席しろ。」

「え……?」

「スキャンダルが出た以上、裕奈は公の場に立たなければならない。お前もそこに立て。」

「……俺が?」

「そうだ。これまでのように裏で支えるだけじゃない。世間の目の前で、堂々と“マネージャーとして”彼女を支えろ。それができないなら……」


松永の声が鋭くなる。

「今すぐ裕奈の前から消えろ。」


渉は息を呑む。


「お前がただの逃げ道なら、裕奈には必要ない。お前がいることで裕奈の立場が危うくなるなら、いっそ消えたほうがいい。」

「……っ」

「だが、お前に本気で“支える”覚悟があるなら、証明してみせろ。何があっても、裕奈の隣に立ち続けると。」


渉の拳が強く握りしめられる。


裕奈のために自分ができること。それが、世間の目の前に立つことなのか。


これまで渉は裏方として裕奈を支えてきた。それが自分にできる最善の形だと信じていた。


だが、それは“逃げ”ではなかったのか?

松永の言葉が渉の胸を強く締めつける。

「……わかりました。」


渉はゆっくりと口を開く。その目には、迷いがない。


「俺は……裕奈の隣に立ちます。」

松永は静かに渉を見つめ、ふっと目を細めた。

「……会見は3日後だ。それまでに覚悟を決めろ。」


渉は深く頷きながら、拳を握りしめた。

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