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輝きを求めて編8(真由との再会)

渉は、元カノである後輩の真由のことも思い出した。

学生時代、彼女との時間は楽しかったが、どこかで自分が彼女をちゃんと支えられていなかった記憶も胸に残っていた。

今の自分を見つめ直すために真由と話をしてみたいと思った渉は、迷いながらも彼女の携帯番号に連絡を入れた。


「もしもし、真由?」

電話越しに聞こえた懐かしい声は、少し大人びて落ち着いていた。

渉が再会の提案をすると、真由は快く応じてくれた。

二人は行きつけだったカフェで会うことになった。


カフェの窓際の席に座る真由は、以前よりも洗練された雰囲気を纏っていた。

渉が席に着くと、彼女は変わらぬ笑顔で迎えてくれた。


「お久しぶりです、先輩。元気にしてましたか?」

「まあ、なんとかやってるよ。真由こそ、変わらないな。」

「そうですか? 自分では結構変わったと思うんですけど。」


久々の再会に、二人はしばらく近況報告や懐かしい話で盛り上がった。

共通の友人たちの話題に笑い合い、大学時代の思い出を語るうちに、真由は自然と自身の恋愛について話し始めた。


「実は、大学で出会った彼と付き合ってるんです。もう1年くらいになります。」

「そうなんだ。それは良かったな。」

渉は心から祝福するように言ったが、胸の奥がほんの少しだけざわつく感覚を覚えた。

同時に、自分から別れを告げておきながら勝手だな、と少しだけ自己嫌悪も覚えた。


そして、話が落ち着いたころ、渉は意を決して本題を切り出した。


「真由……俺、高校の頃、どんな先輩だったと思う?」

突然の問いに、真由は少し驚いた様子だったが、すぐに真剣な表情で答えた。


真由は少し考える素振りを見せた後、目を伏せながら静かに話し始めた。


「先輩は……すごく真っ直ぐな人でした。サッカーに夢中で、自分のやりたいことに全力で。それは素敵だったんです。けど……」


正直、ちょっと寂しかったです。私のこと、見てくれてないんじゃないかって思ったりして。」


「けど?」

渉が促すと、真由は微かに苦笑いを浮かべた。


「私はね、正直言うと、すごく寂しかった。先輩の頭の中には、いつもサッカーのことばっかりで……私のこと、見てくれてないんじゃないかって思ってた。」


その言葉に、渉は息を飲んだ。

自分の過去を振り返り、真由に対する気遣いが足りていなかったことに気づく。


「……ごめん。俺……本当に、何も分かってなかったんだな。」


真由は首を横に振り、渉を見つめた。

「でもね、先輩だけが悪いわけじゃないの。

私も言えなかったんだ、ちゃんと。『もっと私のこと見て』って。」


渉は手元のカップを見つめながら、苦しげに言葉を続けた。

「今、俺が誰かを支える立場になって、ようやく分かったんだ。あの頃の俺は、周りをちゃんと見れてなかった。真由にも、サッカー部の仲間にも……」


真由はその言葉に優しく微笑んだ。

「でも、先輩は変わったんじゃない?こうして自分の過去を見つめようとしてる。それだけでも、すごいことだと思うよ。」


その言葉に渉は少しだけ救われた気がした。そして、彼はふと尋ねた。

「俺がもし、あの頃に戻れるなら……どうすれば真由を寂しくさせなかったと思う?」


真由は驚いたように一瞬まばたきし、それから少し考えるように視線を落とした。

そして、ゆっくりと言葉を選ぶように言った。


「ちゃんと向き合うことだよ。自分のことで精一杯にならないで、相手を大事にするってこと。難しいけど、今の先輩ならできるんじゃない?」


「……ちゃんと向き合うこと……」

その言葉が、渉の胸の奥に静かに染み込んでいく。


過去の自分が浮かび上がる。


あの頃の俺は、サッカーに全力だった。

でも、怪我をしてピッチを去った瞬間、すべてが終わったと思い込んだ。自分を失ったような気がして、何も見えなくなっていた。


その時、そばにいた真由の気持ちを考えたことがあっただろうか? 彼女がどんなふうに俺を支えようとしていたのか、どれだけ心配してくれていたのか……。


いや、俺はそれどころじゃなかった。

自分のことで精一杯で、彼女の気持ちに気づこうともしなかった。


「俺は、サッカーを失った時、自分には何も残らないと思っていた。でも……違ったんだな。」


渉は思わず呟いていた。


真由はそっと微笑む。

「うん。先輩には、先輩にしかできないことがあった。私はただ、そばにいたかっただけなんだけどね。」


その言葉に、胸が締め付けられるような思いがした。


(俺は、あのときの真由の気持ちをちゃんと受け止めることができなかった。)


そして、ふと頭に浮かぶのは裕奈のことだった。


――彼女の笑顔、疲れた顔、俺に向ける視線。


(俺は、裕奈の隣にいるのに、彼女の本当の気持ちを見ていなかったのかもしれない。)


それは、かつて真由と過ごした日々と同じような過ちを、今も繰り返しているのではないかという疑念だった。


「先輩はとても優しい方ですから、自分を責めすぎないでくださいね。」

真由の言葉に、渉はハッとする。


(俺はずっと過去のことを悔やんでばかりいた。でも、真由は前を向いて生きているんだ。)


ふと、渉は彼女に問いかけた。

「真由は……今、幸せか?」


真由は少し驚いたように目を瞬かせたが、すぐにふっと微笑んだ。

「色々とありますけど、まあまあ幸せですよ。」


その言葉に嘘はなかった。

穏やかで、どこか誇らしげな笑顔だった。


渉はその笑顔を見て、ようやく心の底から「良かった」と思った。


(もう、俺が気にすることじゃないんだ。)


彼女は彼女の人生を歩んでいる。

ならば、自分もまた前を向かなければならない。


「そっか、それなら本当に良かった。」

渉はそう言って微笑み、自分の仄かな未練に心の中で静かに区切りをつけた。


その後、軽い雑談をした後、会計を済ませた。


別れ際に渉は言った。

「ありがとう、真由。またいつか話せたらいいな。」


真由は穏やかに微笑み、「そうですね。そのときは、もっと色々話しましょう。」と言うと、渉に小さく手を振った。


渉は彼女の言葉を胸に刻み、カフェを後にした。


(俺は、過去に向き合うためにここに来た。でも、本当に向き合うべきなのは――)


ーー未来、裕奈のことだ。


歩きながら、その思いが渉の心に深く根を下ろしていくのだった。

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