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輝きを求めて編5(三つの選択肢)

松永のオフィスに呼ばれた渉は、緊張しながらもその場に座った。

松永の机の上には資料が広げられており、渉のこれまでの業績をまとめたものが置かれている。


「久住、今日は少し真剣な話をする。お前のこれからについてだ。」


渉は真っ直ぐに松永の目を見た。

「はい。」


松永は資料を軽く指でトントンと叩きながら、渉に語りかけた。

「お前がマネージャーとして働いてきたこの期間、私たち事務所としても高く評価している。スタッフやタレントからの評判も良く、特に紗良の活躍にお前が大きく貢献しているのは間違いない。」


渉は少し戸惑いながらも、「ありがとうございます」と短く応えた。


松永はそこで一旦言葉を切り、さらに真剣な表情になった。


「だが、お前にとってこれからが重要だ。契約満了まであと1か月だが、それを前にしてお前に三つの選択肢を提示する。」


渉は息を飲み、松永の言葉を待った。


「一つ目は、このまま契約を延長し、契約社員として働き続ける道だ。これは現状維持の選択だな。」


松永は資料の一部をめくりながら続けた。


「二つ目は、大学を辞めてこの事務所に正社員として残る道だ。お前は一マネージャー以上のポテンシャルを持っている。将来の幹部候補として育てることも視野に入れている。」


渉の表情が少し硬くなる。

正社員という選択肢の重さが胸に響いていた。


「そして三つ目は、大学に戻る道だ。これは今までの経験を活かしつつ、自分の本来の目標や人生を再確認するための選択になる。」


松永は一旦話を止め、渉の反応を見た。

渉は何かを考え込むようにうつむいている。


「ただし、どの選択肢を選んでも、お前には一つ考えなければならないことがある。それは――裕奈を支えるということの重さだ。」


渉は顔を上げ、松永を見つめた。その目には驚きと不安が混じっていた。


松永はさらに続けた。


「お前もわかっているだろうが、裕奈は国民的女優だ。彼女を支えるということは、普通の仕事以上に覚悟と責任を伴う。そして、それはお前が単に彼女の“支え”であるだけでは成り立たない。」


渉の眉が少し動いた。松永の言葉が鋭く胸に刺さる。


「裕奈がさらに輝くためには、お前自身が彼女と並び立つ存在にならなければならない。彼女を支える重さ、それを理解した上で、その隣に立つ覚悟がお前にあるのかを、私は聞きたい。」


渉はその言葉を聞いて、しばらくの間黙っていた。頭の中では、松永の言葉が何度も繰り返されていた。


松永は椅子に深く座り直し、やや穏やかな口調で言葉を締めくくった。


「選択肢はお前に委ねる。ただし、どの道を選ぶかに関係なく、一週間以内に自分の結論を出せ。それがお前自身の未来のためでもある。」


渉はゆっくりと深呼吸をし、しっかりと松永の目を見て頷いた。


「……わかりました。一週間で答えを出します。」


松永は微かに微笑み、無言で渉を送り出した。


その背中を見送りながら、松永は「さあ、どう動くか見せてくれ」と心の中で呟いた。



⭐︎⭐︎⭐︎


松永は渉がオフィスを出て行った後、ふと視線を資料から窓の外へと移した。

薄暗くなり始めた街並みを見つめながら、千鶴との最近の会話を思い返していた。


千鶴は真剣な表情で話していた。


「裕奈は渉くんに特別な感情を抱いています。私から見てもそれは明らかです。でも、それが裕奈のためになるのかどうか……あの子にとって久住くんが必要なのは間違いありません。ただ、久住くんがその重圧に耐えられるかどうか、それは別の話です。」


松永は黙ってその言葉を聞いていたが、心の中で深く頷いていた。


国民的女優の傍で支えるというのは、表に見える華やかさ以上に、過酷な責任と注目を伴う。

特にそれが感情や愛情に基づくものであれば、尚更のことだった。


松永の脳裏に、自分の過去が蘇る。


――あの頃、まだ自分が駆け出しの若手マネージャーだった時のこと。人気が急上昇していた女優・沙織と、ひょんなきっかけで親密になった。


二人はいつしか恋人同士になり、公私ともに支え合う関係になった。


だが、スキャンダルが発覚したのはあまりにも早すぎた。二人の関係が世間に知れ渡ると、沙織はバッシングの的となり、仕事も激減した。


所属事務所も彼女を庇いきれず、最終的に沙織は芸能界を去る決断をした。


辞める時「一緒についてきて欲しい」と彼女は言った。


だが、当時の松永はその言葉に応えられなかった。自分もまだ若く、業界での夢を捨てることなど到底考えられなかったのだ。


「あなたはきっと、一生その“成功”とやらと一緒にいればいいわ。孤独と引き換えにね。」


沙織は冷たい目で松永を罵倒し、そのまま彼の前から去っていった。


その後、沙織がどこで何をしているのか、松永は一切知らない。


けれど、その言葉とあの時の後悔だけは、今も心の奥底に残り続けている。


窓の外を眺めながら、松永は独り言のように呟いた。


「……渉、どうする? あの時の俺みたいに逃げるのか、それとも……」


松永は目を閉じ、かつての沙織と現在の裕奈を重ね合わせていた。彼女たちはどちらも、圧倒的な輝きを放つ存在でありながら、誰よりも深い孤独を抱えていた。


渉と裕奈の姿を見つめるたび、松永は自分が過去に成し得なかったことを、どこか彼に期待している自分に気付いていた。


そして同時に、その重さを知っているからこそ、渉に対してあえて厳しい選択を突きつけたのだ。


「国民的女優を支える重さ……それがどれほどのものか、俺自身が知っている。だが、それを背負って立つ覚悟があれば、あの時の俺にはできなかった何かが見えるかもしれない。」


松永は自分の胸に去来する感情を押し殺し、再びデスクに視線を戻した。

渉に与えた一週間、その間に彼がどんな答えを導き出すのかを見守る覚悟を固める。


その時、松永の顔にはほんの僅かだが、希望の色が浮かんでいた。

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