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輝きを求めて編3(恋だったんだ)

その日、裕奈は前日の大失敗を取り戻すため、再撮影に臨む準備をしていた。


スタッフや共演者は裕奈を気遣い、極力プレッシャーを与えないようにしている様子だったが、裕奈自身は不安で胸が張り裂けそうだった。


控室に一人きりになった裕奈は、深呼吸をして気持ちを落ち着けようとしたが、手の震えが止まらない。


「私は大丈夫……ちゃんとできる……」


そう自分に言い聞かせても、頭の中で昨日の失敗が何度も繰り返される。

期待を裏切ったという罪悪感が、彼女を追い詰めていた。


ーーコンコン


ノックの音に、裕奈がはっと顔を上げると、住吉が控室に入ってきた。


「裕奈さん、これ。」


住吉は渉から預かったノートを差し出した。

裕奈は一瞬困惑した表情を浮かべたが、住吉が続けた。

「久住くんが、あなたにって。」


「……渉が?」


裕奈は戸惑いながらノートを受け取った。表紙を見た瞬間、それが渉がいつも持ち歩いていたノートだと気づき、胸が締め付けられるような思いがした。


「なんで……私にこれを……?」


住吉は優しく笑って言った。

「久住くんはね、いろんなことを考えてたみたいよ。裕奈さんのために、ずっと。中を見ればわかると思う。」


裕奈は小さく頷き、震える手でノートを開いた。





裕奈は控室のソファに腰掛け、膝の上に渉がくれたノートをそっと広げた。

その表紙は使い込まれて少しだけ角が擦り切れていた。

渉の丁寧な字が並ぶページを、一枚ずつ慎重にめくる。


「裕奈の良いところ」

「裕奈の体調管理のポイント」

「裕奈が輝くために必要なこと」


一つひとつの項目に、渉の真剣な思いと、彼女を大切にする気持ちが込められているのが分かった。


裕奈はページを進めるたびに胸が締め付けられるような感覚を覚えた。


ページをめくる中で、幼い頃の記憶が不意に蘇る。

まだ幼かった頃、家庭で父と母の喧嘩が絶えず、学校でも孤立していた裕奈は、渉だけが自分の味方でいてくれると感じていた。


「俺さ、別にすごいことはできないけど……裕奈が辛いときは、俺が支えるからさ。俺が裕奈のヒーローになるよ。」


そう言ってくれた渉の顔は真剣そのもので、裕奈の胸に深く刻まれた。

そして、彼が何気なく続けた言葉。


「裕奈はさ、可愛いんだから、きっと大人になったら人気者になるよ。女優とかになったら、みんなに愛されるんじゃない?」


その言葉が、裕奈にとって初めて「自分にも可能性がある」と思わせてくれた瞬間だった。


「じゃあ、私も約束する。絶対にみんなが知ってるくらい、すごい人になるから。」

「例えば…女優さんになってテレビとかでみんなが『裕奈だ!』って分かるくらい。そうなったら、私のヒーローは渉くんだって自慢してもいいよ。」


渉は少し照れたように笑いながら、それを受け入れてくれた。

その時の二人の間には、何の迷いもなかった。


中学で転校が決まり、裕奈が東京へ行く日、渉との最後の時間。

裕奈は不安と寂しさを抱えながらも、渉に伝えた。


「渉、私ね……もっともっと輝いてみせる。いつかまた会ったとき、渉が私を見て『すごい』って思えるくらいに。」


その言葉を聞いた渉も、強い決意を込めて返した。


「俺ももっと輝くよ。輝いてすごい人になる。裕奈が誰にも負けないくらいすごい人になったら、俺もちゃんと追いつけるように……裕奈の横できちんと支えられるように頑張る。」


二人で交わした約束は、時が経っても裕奈の心に深く刻まれていた。


そして今、渉のノートを抱きしめながら、裕奈はページをめくる手を止めた。

そこには、あの頃の記憶を思い出させるかのような言葉が記されていた。


「俺はもう一度、自分自身を輝かせたい。そしてその光で、裕奈の隣に立つ。」


その一文に触れた瞬間、裕奈の心に真っ直ぐ渉の思いが届いた。


「渉……」


彼の名前を小さく呟く。

自分の胸の奥にぽっかり空いていた穴が、彼の言葉で満たされていくようだった。


そして同時に、自分がどれほど渉に支えられていたかを痛感した。


――私、ずっと渉を頼りにしてたんだ。これって……恋だったんだ。


その気づきが、彼女の中にぽっと灯る温かな光となった。





裕奈はノートをそっと胸に抱きしめる。


幼い頃の記憶と、渉が今でも自分を見てくれているという事実が心に重なり、彼への想いがどんどん膨らんでいく。


住吉がそっと控室を覗き込んだが、涙を拭いながらノートを抱える裕奈の姿を見て、何も言わず静かにドアを閉じた。


――今度こそ、自分を信じてやり切ろう。渉がくれたこの気持ちを無駄にしないために。


深呼吸をして、涙を拭った裕奈は立ち上がった。

その瞳には、揺るぎない決意が宿っていた。

撮り直しの撮影が待つスタジオへと向かう彼女の表情は、かつてないほど凛々しかった。


渉との約束、そして彼の想いを胸に、裕奈は再び前を向いて進み出した。


裕奈は渉のノートを抱きしめるように持ち、静かに目を閉じた。

ノートに綴られた渉の思いが、彼女の中で大きく膨らんでいく。


「渉……私は、ずっとあなたに支えられてたんだね。」


心の中で彼を呼ぶのは久しぶりだった。

けれど、その名前を心に浮かべるたび、自分がどれほど彼を必要としていたかが痛いほど分かった。


――この気持ちは、恋だったんだ。


その気づきが、裕奈の中に新たな光を灯した。

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