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輝きを求めて編1(不調)

渉は夜の静けさの中、自分の部屋で一人、窓の外を見つめていた。

紗良の言葉をきっかけに思い出した中学時代の約束が、胸の奥で燃え始めていた。


「どうして、あの約束を忘れてしまったんだ……。」


渉はその問いを自分に投げかけた。


――答えは明白だった。


高校3年生の時、大怪我を負ったあの日。

サッカー部の主将として活躍していた自分が、突然その座から降りなければならなくなった日。


「俺にはもう何もできない――」


その思いが胸に突き刺さり、自分の価値を見失った。


それから渉は、何かに打ち込むこともなく、ただ無気力に時間をやり過ごすようになった。


大学時代はバイトと勉強に追われながらも、それらに熱意を持つことはなかった。

何を目指せばいいのかも分からず、ただ目の前の課題をこなすだけの日々。


「輝くこと」なんて、とうに諦めていた。


支えることすらなかった。


けれど、マネージャー補佐になったとき、初めて「支える側に回る」という選択肢を見つけた。

誰かの役に立てれば、それでいい。

そうすれば、自分の失った自信を埋められる気がした。


――違う、本当はただ、裕奈の隣にいたかっただけなのに。


だが今、紗良の言葉、そして裕奈との約束を思い出したことで、心にもう一つの問いが生まれていた。


「自分が輝くって、一体どういうことなんだろう……。」


渉は初めて、その問いと真剣に向き合い始めた。





一方、裕奈の周囲にも変化が起きていた。


遼と共演するドラマの制作発表会が開かれ、豪華なキャスト陣とスタッフの名前が並ぶ中、裕奈と遼のペアが再び大きな注目を集めていた。


記者たちのフラッシュが飛び交う中、裕奈はプロの笑顔を浮かべ、質問に的確に答えていく。隣の遼も終始穏やかな表情で裕奈をフォローしていた。


だが、舞台袖にいた千鶴や住吉は、そんな裕奈の様子に微かな違和感を覚えていた。


「なんていうか、裕奈さんの表情がちょっと硬いですね……。」

住吉がぼそりと漏らす。


「ええ……。最近、忙しすぎるせいか、少し疲れているみたい。でも……それだけじゃないみたい」


千鶴は腕を組み、娘をじっと見つめた。

長年裕奈を見守ってきた母親の直感が、娘の心に何か大きな変化が起きていることを察していた。


その夜、ドラマ発表会のニュースは一斉に報じられた。

裕奈と遼のカップリングに対するファンの期待は高まり、SNSでは二人のビジュアルや共演に絶賛の声が溢れていた。


だが、その華やかな報道の裏で、裕奈の心は静かに揺れていた。


「私はこれでいいのかな……。このまま、一人で輝き続けていけるのかな……。」


渉を遠ざけたことで生まれた空虚感。

それを埋めようとするかのように仕事に没頭してきたが、その思いは日増しに強くなるばかりだった。


そんな裕奈を、遼は黙って見守っていた。


「君は一人で輝ける人だ。でも……もしそれが辛いなら、僕が支えるよ。」

遼の言葉が、裕奈の心の奥に静かに響いていく。


一方、渉は仕事の合間にも、自分自身と向き合い続けていた。

「自分が輝くって、どういうことなんだ……。」


紗良やスタッフたちが自分に寄せる信頼。

そして、中学時代に裕奈に誓った「輝く」という約束。


それを果たすためには、自分がどうあるべきかを考え続けていた。


そんな中、ふと目にしたのは、ドラマ制作発表会のニュースだった。

そこには、笑顔で並ぶ裕奈と遼の姿が映し出されていた。


その光景を見た渉の胸に、再び湧き上がる感情があった。

「俺は本当に、裕奈の隣に立てる人間なんだろうか……。」


渉の心の葛藤は、まだ終わりを迎えてはいなかった。




裕奈の不調は、次第にスタッフの間でも噂になるようになっていた。


撮影現場での集中力の低下、時折見せるぼんやりとした表情。

そして何よりも、「裕奈らしくない」演技が散見されるようになっていた。


「……ねえ、最近の裕奈ちゃん、ちょっと様子が変じゃない?」

メイクルームの隅で、メイク担当の女性がもう一人のスタッフにそっと囁いた。


「うん。なんか、気持ちが入ってないというか……前はシーンに入るとピンと空気が変わったのに、最近はそれがないよね。」

「そうそう。それに、台詞も妙に噛んだりするし、リハのときもミスが増えた気がする。」

「疲れてるのかな?」


渉はふと足を止めた。

メイクルームの入り口近くでその会話を耳にしてしまったのだ。


「でも、裕奈ちゃんってめちゃくちゃプロ意識高いじゃん?どんなに忙しくても、絶対にそんなミスしなかったのに……。」

「うん、それが気になるんだよね。ほら、前にあったドラマのときなんて、寝る時間削ってまで役作りしてたのに……今は、なんていうか……集中しきれてないっていうか……。」


渉の胸がざわついた。

ーー裕奈が、集中できていない?


「そういえば、今日メイクしてるときも、すごくぼんやりしてたんだよね。何か考え込んでる感じだった。呼んだら『あ、ごめんなさい』ってすぐに笑ってたけど……。」

「無理してるのかな……。」


――何かがおかしい。


渉はその日、事務所に戻るといつも通り仕事をこなした。しかし、心の中で湧き上がる不安は消えるどころか、ますます大きくなっていった。


裕奈に何があったのか。


その答えを知るためには、彼女と直接向き合うしかない。

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