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高校生編4(side渉2・焦燥)

高校2年の秋、渉は苦悩していた。

毎日ノートに細かく記録をつけ、練習や試合の分析を行い、チームメイトにアドバイスを伝える。


その結果、部全体の能力は確実に向上していた。

だが、自分自身のプレーに関しては思ったような成長を感じられなかった。


「何が足りないんだ……。」


焦りと苛立ちが渉を支配していた。


そんな中、練習中に渉は軽い怪我をしてしまい、1週間の休養を余儀なくされることとなった。

怪我で思うように動けず、渉はどこか気まずい気持ちで部活後の時間を過ごしていた。


そんなある日、偶然にも真由と二人きりで帰ることになった。


夕暮れの街並みを歩きながら、二人の間にはしばらく静寂が続いた。

真由は何かを言いたそうにしていたが、言葉を選んでいる様子だった。


渉はその視線に気づいていながらも、自分から話題を切り出す気力が湧かなかった。


やがて真由が小さな声で言った。

「先輩、今も苦しい?」


渉は少し驚いて、真由を見た。

彼女の瞳には純粋な心配と、少しの躊躇いが混じっていた。

「まぁ……少しだけな。自分の思う通りにいかないこともあるし。」


渉が正直に答えると、真由は歩みを止めて渉の顔を見つめた。


「先輩って、なんでそんなに頑張れるんですか?前も聞いたけど……、ただ限界を超えたいって、それだけじゃない気がして。」


渉はその質問に一瞬言葉を詰まらせた。

「……さぁ。ただ、俺は輝きたいんだと思う。」

「輝きたい……。」


真由はその言葉を繰り返すように呟いた後、勇気を振り絞るように大きく息を吸い込んだ。


「ーー私、先輩のこと、好きです。」


突然の告白だった。真由の声は震えていたが、その言葉には真剣な思いがこもっていた。


「ずっと見てました。先輩が頑張ってる姿、周りを支えてる姿、みんなを引っ張ってる姿。先輩はすごいです。私はそんな先輩を支えてあげたい……一緒に頑張りたい。」


渉は驚きのあまり言葉を失った。真由の瞳は涙を浮かべて輝いていた。その瞬間、渉の脳裏には裕奈の顔がふと浮かんだ。


「輝きたい……。」


幼い頃に裕奈が語ったその言葉が心に蘇る。

彼女の笑顔と、引っ越しの別れ際に交わした約束――「もっと輝いて再会しよう」。


だが、目の前には真由がいた。自分を支えたいと、正面から告げてくれる真由。


渉は深呼吸し、真由の目を見つめた。そして、静かに口を開いた。

「ありがとう、真由。俺みたいな奴を支えたいって言ってくれて……本当に嬉しい。」


その声には迷いがあったが、それでも渉は続けた。

「俺で良ければ……宜しくお願いします。」


真由の顔に驚きと喜びが広がった。

その表情を見て、渉は胸の奥でわずかな痛みを感じた。


裕奈との約束は、心の中で大切にしまい込むことにした。

渉は今、自分を支えたいと言ってくれる真由の想いを受け入れることを選んだのだった。





冬の大会で、渉の率いるサッカー部は県大会のベスト4まで進んだ。

個々のスキルが向上し、チーム全体がまとまりを見せたのは、彼のリーダーシップと日々の努力の成果だった。

監督やチームメイトからの信頼も揺るぎないものとなり、渉は次期主将として選ばれた。


一方、プライベートでは真由との関係も順調に見えていた。

真由は渉を深く愛し、渉もそんな彼女の愛情に応えようとしていた。

恋人らしい行為も行い、二人は次第に恋人らしい関係を築き、誰もが羨むようなカップルとなった。


しかし、渉の心には常に「何かに追い立てられているような」焦燥感があった。


渉は真由に対して「好き」という気持ちは持っていた。

しかしそれでも、自分自身を追い込むようにサッカーへと没頭する日々が続いていた。


「もっと上手くなりたい。もっと輝きたい。」


渉はその思いに突き動かされるように練習に励んだ。

しかし、それは彼自身の心の中にある、満たされない何かを埋めるための行動だった。


真由との時間もどこかおざなりになり、デートをドタキャンすることもしばしばあった。

そんなとき真由は、渉を責めるどころか、優しい笑顔で「頑張ってね」と声をかけてくれた。


だが、その笑顔の裏で、真由の中に少しずつ寂しさが芽生え始めていたことに、渉は気づいていなかった。





新年度が始まり、3年生になった渉はいつものようにノートを開き、チームの分析を続けていた。


そんな中、ミーティングの席で武藤が言った。

「次の主将は――久住、お前だ。」


突然の指名に、渉は目を見開いた。

「え……? 俺が?」


チームメイトたちも一瞬驚いた表情を浮かべた。


主将といえば、チームを引っ張る象徴的な存在であり、渉の高校では、代々ストライカーやトップ下のような、試合の流れを決定づけるポジションの選手が選ばれることが多かった。


渉はボランチで、目立つプレーをするタイプではなく、どちらかといえば支える側の選手だった。

だからこそ、意外に思った者もいたのだろう。


だが、それも束の間、納得したように頷く者が続いた。


渉は決して派手なプレーをするわけではない。

だが、チーム全体を俯瞰し、誰よりも仲間を支え、試合の流れをコントロールする力があった。


そして何より、困った時に頼れる存在だった。


驚きと戸惑いの中で、渉は武藤の真剣な眼差しを受け止める。


「……わかりました。」


そう静かに答えた渉の胸には、まだ小さな不安が渦巻いていた。

だが、同時に、仲間たちの信頼の重さが、彼の心を突き動かしていた。


「渉なら間違いないよ。」

「いつも俺たちのこと見てくれてるしな。」


その言葉に、渉は初めて自分がやってきたことの意味を理解し始めた。


(俺は……みんなのために、考えて動いてたんだ。)


それは、渉が持つ力だった。

だが、この時の渉はまだ半信半疑だった。

自分は主将にふさわしいのか。自分にそんな力があるのか。


ただ、武藤の言葉だけは、ずっと胸に残っていた。


「お前がいたから、チームは変わったんだ。あとは、自分を信じるだけだぞ。」


その言葉の意味を、渉が本当に理解するのは、もう少し先のことだった。




渉は正式にサッカー部の主将に抜擢された。

渉はその責任の重さを痛感しつつも、「自分がこのチームを引っ張らなければ」という強い思いで練習に打ち込んだ。

 

しかし、渉の身体は確実に悲鳴を上げ始めていた。


冬の寒さが膝の違和感を強め、練習後にはじんわりとした鈍い痛みが残ることが増えていた。


それでも、渉は気にしないふりをした。

これくらいの痛み、乗り越えてこそ強くなれる。そう信じていたし、そう思い込もうとしていた。


練習後のストレッチ中、監督やチームメイトが「大丈夫か?」と声をかけてくることがあった。

渉は「平気だよ」と笑顔で返す。実際、その場では本当に大丈夫な気がしていた。


けれど、夜。

一人きりの部屋で膝に湿布を貼るたびに、ふとした不安が胸をよぎる。


(この痛みがずっと消えなかったら……?)


そんな考えが浮かびそうになるたび、渉は頭を振ってかき消した。弱音を吐いている場合じゃない。

俺はもっと強くなって、もっと輝くんだ。


ーーだから、大丈夫。


渉はそう自分に言い聞かせながら、膝に手を当て、静かに目を閉じた。


そして……その瞬間は訪れた。

今のサッカーのシステムだと殆ど純粋なトップ下はなく、ボランチの選手が主将をすることは多いと思いますが、トップ下がまだ残っている時代と考えて頂ければ・・・(;'∀')

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