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高校生編3(side渉1・もっと輝きたい)

渉が高校に入学してから数ヶ月が経った。


強豪校のサッカー部は噂以上に厳しく、連日のトレーニングは体力も精神力も限界を試されるようなものだった。

それでも渉は一歩も引かず、部活が終わった後も一人でグラウンドに残り、ボールを蹴り続けていた。


ある日、日が沈みかけたグラウンドを見つめながら、顧問の武藤が声をかけてきた。


「久住、少し休んだらどうだ?」


渉は振り返り、少し息を切らせながら答えた。

「まだ、もう少しだけやりたいです。」


武藤は渉の顔をじっと見つめた。


汗が滴るその姿には強い意志が感じられるものの、その目の奥にはどこか焦りのようなものが見え隠れしていた。


「お前、最近ずっとこんな調子だな。トレーニングだけでなく自主練まで毎日…。オーバーワークで倒れでもしたら元も子もないぞ。」


それでも渉はボールを握りしめ、少し視線を落としたまま、強い口調で答えた。

「まだ足りないんです。」


「何が足りないんだ?」

武藤の静かな問いかけに、渉は一瞬躊躇した後、ぽつりと本音をこぼした。

「……追いつきたい人がいるんです。」


その言葉に武藤は少し驚いた様子を見せた。

「追いつきたい人?」


渉は視線をボールに落としたまま続けた。

「自分がもっと輝かないと、その人の隣に立って支えるなんて、できないと思うから。」


その言葉に込められた強い思いに、武藤は胸の奥がざわめくのを感じた。


まだ高校1年生の少年にしては重すぎる覚悟に、危うさを覚える一方で、そのひたむきさには確かな輝きがあった。


武藤は静かに溜め息をつきながら、渉の肩に軽く手を置いた。

「お前の気持ちは分かった。ただな、無理しすぎて潰れたら、そもそもその人を支えるどころか、隣に立つことすらできなくなるぞ。」


渉は一瞬動きを止めたものの、真剣な顔で頷いた。

「分かりました。でも、もう少しだけやらせてください。」


武藤はその言葉を聞いて少し困ったように笑い、

「まったく頑固なやつだな。でも、ほどほどにな。」

とだけ言い残し、その場を去った。


武藤の背中を見送りながら、渉は再びボールを蹴り始めた。


その瞳には、誰かを追いかける強い決意と、未熟ながらも揺るがない信念が宿っていた。





高校2年の夏、渉はサッカー部の活動に没頭していた。公式戦や練習試合のたびに、彼は一冊のノートを取り出し、試合の流れや選手の動きを詳細に記録していた。


「対〇〇高校戦:0-2 敗戦」

「前半15分、右サイドの守備が崩れた。相手の11番の突破力が高く、対応が後手に回った。」

「改善策:右サイドバックはもう一歩前にポジションを取るべき。ボランチもカバーリングを意識。」


書き込まれた文字はびっしりと詰まっていた。


ただ結果を記録するだけではなく、そこに至った要因、選手それぞれの動き、そして改善策までが細かく整理されている。


試合が終わるたびに、渉はそのノートを開き、部員たちにフィードバックを行っていた。


「加藤、お前のポジショニング、もう少し前の方がいい。後半30分のシーン、もう一歩詰めていればシュートコースを防げたはず。」

「吉田、守備の時に相手のトップ下を見失うことが多かった。ボールウォッチャーにならず、もう少し視野を広げてみろ。」


それはまるでコーチのような指導だった。

だが、渉自身は特別な意識を持っていたわけではない。ただ、自分がチームのためにできることを考え、自然とやっていただけだった。


サッカー部の顧問である武藤は、そんな渉の姿を黙って観察していた。

最初はただの記録魔かと思っていたが、その内容を見せてもらったとき、武藤は目を見開いた。


(これは……ただのメモじゃないな。)


渉のノートには、ただの試合の記録ではなく、「どうすればチームが強くなれるか」が詰まっていた。

しかも、それを自分の中だけで留めるのではなく、他の部員たちにも伝え、実際のプレーに反映させようとしている。


「久住、お前はどうしてそんなに細かく試合を分析するんだ?」

武藤が何気なく尋ねると、渉は少し考えてから答えた。


「……いや、なんか、何となくですけど気づくんですよね。こうすればもっと良くなるのにって。だったら、みんなに伝えたほうがいいかなって。」


その言葉に、武藤は確信を持った。


(こいつには、選手を導く力がある。)


だが、この時点ではまだ、渉自身がその才能に気づいていなかった。

ただ、自分ができることをやっているだけだった。


そんな渉を陰ながら見つめる存在がいた。

1年生としてサッカー部に入部し、マネージャーとなった香月真由こうづきまゆだった。


真由は最初、渉に特別な感情を抱いてはいなかった。

顔立ちは整っており女子生徒から人気はあるが、物静かで周囲に媚びることもない彼を、ただ「頼れる先輩」として見ていた。


だが、部活が進むにつれ、渉の姿が真由の心に少しずつ焼き付いていった。

練習が終わり、他の部員たちが帰る中でも、一人残ってボールを追う渉。

その姿は真由の目には、ひたむきでまっすぐな輝きを放っているように映った。


「なんでこんなに頑張れるんだろう……。」


彼が懸命に努力を続ける理由を知りたい。真由は、ふとした瞬間にそう思うようになった。


渉はどんな時でも全力だった。

真由はマネージャーとして、誰よりも近くで彼の努力を見ていた。

だが、渉がどんなに追い込んでも愚痴を言わず、むしろ静かな決意を秘めているように見えたことに、真由はますます彼への興味を強めていった。


ある日、真由は部活後の居残り練習を見守りながら、思わず声に出して言った。

「先輩って、どうしてそんなに頑張れるんですか?」


渉は一瞬、ボールを止めた。そのまま少し考えるように黙り、ポツリと言った。

「ただ……自分の限界を越えたいだけだよ。」


その言葉の奥に、真由は何か大きなものを感じた。

それは、自分の限界を越えるという単純な努力以上に、何か目標に向かって突き進んでいるような――そんな雰囲気だった。


その日から、真由は渉をもっと目で追うようになった。

部員たちのユニフォームを洗濯しながら、試合の記録を書きながら、渉のひたむきさを思い出しては心が熱くなるのを感じていた。


「あの先輩には、私の知らない特別な何かがある。」


渉が何を目指しているのか、真由にはわからなかった。

ただ、それを知りたいという気持ちが、少しずつ彼女の胸の中で膨らんでいった。


そして、真由にとって渉の存在が次第に特別なものになり始める。


彼の努力する姿が、何か大きな目的に裏打ちされているように思え、気づけば彼女はその姿に強く惹かれていったのだった。

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