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高校生編2(side裕奈2・輝きへの疑念)

高校生活は表向き順調だった。

仕事も軌道に乗り、友達にも恵まれ、充実した日々を送っていた。


しかし、そんな裕奈の周りで少しずつ変化が起き始める。


同級生の三浦蓮みうられんに告白されたことがあったが、裕奈は断った。

その時の蓮は少し寂しそうに笑ったが、無理に納得したように見えた。


だが、それからだった。


「裕奈ってさ、やっぱり自分のことしか考えてないよね。」

「蓮くん、けっこう本気だったのに、あんな冷たく断らなくてもよくない?」


裕奈の耳に入らないように囁かれる言葉。

蓮と仲の良い女子たちが陰で裕奈のことを噂し始めた。


さらに、裕奈の仕事が増え、テレビへの露出が増えると、クラスの空気にも微妙な変化が生まれた。

最初は憧れのまなざしを向けていた子たちの中に、次第に冷ややかな視線を投げる者が現れ始めた。


「なんかさ、裕奈って特別扱いされてるよね。」

「裕奈ばっかり注目されて、正直ちょっとムカつく。」


そうした言葉が廊下の隅や教室の片隅で飛び交っていることを、裕奈も気づいていた。


それでも、彼女は表には出さなかった。

これまでも、そうやって耐えてきたのだから。


裕奈はそっと目を閉じ、心の中で繰り返す。


「私はまだ輝ききれていない。もっともっと努力しないと。」


どれだけ陰口を叩かれようと、どれだけ嫉妬の視線を浴びようと、負けるわけにはいかなかった。


彼女の中にはいつも、あの約束があった。

「もっと輝いて、渉がすごいって思えるくらいにならなきゃ。」


そうして、裕奈は前を向き続けた。





そんな日々を送る裕奈だったが、ふとした瞬間に渉のことを思い出すことがあった。

撮影の合間、夜の静かな時間、友達と笑い合っているとき――どんな時でも彼の言葉が胸をよぎる。


「裕奈が誰にも負けないくらいすごい人になったら、俺もちゃんと追いつけるように」


そう思うたびに、裕奈の心は自然と前を向いていた。渉に会いたい気持ちはあった。

しかし、裕奈にとってそれは「今」ではなかった。


裕奈は自分に言い聞かせるように、渉への想いを胸にしまい込む。

「まだ私は輝ききれてない。渉と会うのは、もっと私がすごくなってから。」


その決意が彼女の背中を押していた。


高校の授業が終わると、撮影現場に向かい、セリフを覚え、厳しい演技指導にも耐える。

芸能と高校生活を両立するのは簡単なことではなかったが、裕奈は決して弱音を吐かなかった。


そんな日々を送る中で、裕奈は少しずつ「国民的女優」への階段を登っていく。

テレビや映画での露出が増え、街中で「裕奈ちゃん!」と声をかけられることも増えた。


それでも、彼女の中にはいつもあの約束があった。

「もっと輝いて、渉が見てくれるくらいすごい女優になろう。」


友達と笑い合う教室の片隅で、渉の顔が浮かぶこともあれば、真夜中の撮影現場で、彼の励ましの言葉を思い出すこともあった。


裕奈にとって渉は、過去の思い出ではなく未来への目標だった。


まだ会わない。まだ今は、その時ではない――。

自分を奮い立たせるように、裕奈は前を向き続けた。


そうして、彼女は渉との約束を心の支えにしながら、芸能界と高校生活という二足の草鞋を懸命に履き続けたのだった。





しかし高校3年生の頃、裕奈は家庭の崩壊を目の当たりにする。


広告代理店勤務の父親は仕事に追われる日々を理由に家を空けることが多く、特に東京に引っ越してからは、裕奈と顔を合わせる機会はほとんどなかった。


その一方で、母・千鶴は彼女の芸能活動を一手に引き受け、マネージャーとして全力で支え続けてくれた。

しかし、家族としてのつながりは薄れていき、裕奈もそれを感じ取っていた。


そんな中、父親の浮気が発覚した。

冷え切った夫婦関係に、これ以上の修復は望めなかった。


「もう終わりにしよう」


父親からの申し出に母親は静かに頷き、離婚が成立した。

裕奈の芸能活動が順調だったことで慰謝料や養育費などの金銭面での揉め事はなかったものの、裕奈の心には重くのしかかるものがあった。


ある夜、裕奈は自室で一人、ぼんやりと幼い頃の記憶を思い返していた。

小学校時代、渉に「辛かったら俺が支えるから」と言われ、どんなに救われたかを思い出す。

それは、自分の中で失いかけていた安心感を思い起こさせる言葉だった。


しかし、今は――誰にもその不安を打ち明けられない。

母の苦労を知っているからこそ、弱音を吐くことができなかった。

仕事で忙しくしている間は気が紛れるけれど、夜になると胸に刺さる疑念が、彼女を苦しめた。


「私が芸能活動を始めたから、家族が壊れたんじゃないか…。」


両親が喧嘩している姿、母が一人で自分を支えていた姿、父が家を出ていく背中――その全てが、裕奈の心に深い影を落としていた。


もし普通の生活を送っていたら、父と母はこんな風に別れることはなかったかもしれない。

そう思うたび、裕奈の胸には罪悪感が重くのしかかった。


撮影の合間、同じ高校に通う仲間たちが楽しそうに家族の話をする中で、裕奈は無理に笑顔を作って合わせることしかできなかった。


一部の生徒達からの妬みや嫉み、そして両親の離婚。

裕奈は少しずつ疑問を持ち始めた。


「輝くことって、本当に意味があるのかな……。」


いつも支えにしていた夢や目標が、少しずつ色あせていくような感覚に襲われる。


けれど、それでも仕事を投げ出すことはできなかった。

それは、千鶴や周りのスタッフたちが、自分のために懸命に動いてくれていることを知っているからだった。


そんな裕奈の心の奥底には、ただ一人、渉の姿が浮かんでいた。


彼に「頑張れ」と励まされるだけで、全てが救われる気がする。

けれど、彼との再会も、今の生活の中では遠い夢のように思えた。


「渉……会いたいな。」


裕奈はその思いを胸の奥にしまい込み、再びスポットライトの下へと向かった。

どれだけ心が傷ついていても、彼女は「国民的女優」として、輝き続けることを求められていた。


そうして、裕奈は高校を卒業した。





春の陽射しが穏やかに降り注ぐ午後。

裕奈は自宅のリビングで、母・千鶴と向かい合っていた。


テーブルの上には、一台のスマートフォン。

今まで事務所から支給された連絡用のものしか持たせてもらえなかった裕奈にとって、これは初めての自分の携帯だった。


「……ありがとう、お母さん。」


裕奈はそっと手を伸ばし、それを手に取る。


千鶴は腕を組んだまま、厳しい視線を娘に向けた。


「勘違いしないで。これはあくまで仕事のためよ。プライベートでの使い方には十分気をつけなさい。」

「……うん、分かってる。」

「それに、誰とでも気軽に連絡を取るような真似はしないこと。スキャンダルのリスクが高まるのよ。」


裕奈は少しだけ唇を噛む。

「……そんなことしないよ。」

「ならいいわ。」


千鶴は裕奈の表情をじっと見つめる。


この数年間、娘はずっと世間の期待を背負いながら、表舞台で生きてきた。

裕奈がどれだけ努力しているか、どれだけプレッシャーを感じているかは、誰よりも知っているつもりだった。


だからこそ、不安なのだ。


「高校を卒業したからって、急に自由になったと思わないで頂戴。あなたは普通の子じゃないのよ。」

「……分かってるよ、お母さん。」

裕奈の声は、どこか寂しげだった。


千鶴は一瞬、何かを言いかけたが、結局何も言わなかった。


裕奈はスマホをそっと握りしめる。

画面をスワイプすると、連絡先リストには友人たちの名前が並んでいた。その中に、渉の名前はない。


(今さら、連絡先を知ろうとするのもおかしいよね。)


それでも、ふとした拍子に考えてしまう。

(渉、今どうしてるのかな。)


芸能活動が多忙で、転校以来、一度も会っていないし、連絡を取ってもいなかった。


(もし、また会えたら……何を話そう。)


スマホを見つめたまま、裕奈はふっと息をついた。

画面を閉じ、机の上に置く。


そのまま目を閉じて渉と再会する未来に思いを馳せるのだった。

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