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中学生編2(無自覚な二人)

昼休み、裕奈はいつものように友達と教室で雑談をしていた。


学校生活と芸能活動の両立で忙しい日々だったが、友達との時間は彼女にとって数少ない息抜きだった。


「ねえ、裕奈。」 友達の一人が唐突に尋ねた。

「久住くんとはどんな関係なの?最近よく話してるの見かけるけど。」


その質問に、裕奈は少し驚きながらも自然な笑顔で答えた。

「渉?小学校からの幼馴染だよ。一緒に過ごす時間が長かっただけ。」


友達は興味津々といった様子でさらに話を続ける。

「でも、久住くんって結構人気あるよね。クラスの子たちの中にも気になってるって子、何人かいるよ。」


その言葉を聞いた瞬間、裕奈の胸の奥に小さなチクリとした痛みが走った。


周囲には気づかれないよう、努めて笑顔を保ちながら話を聞き流したが、心の中ではどうにも言いようのないモヤモヤが広がっていった。


放課後、裕奈は一人で渉の部活が終わるのを待っていた。

渉が部活を終えて校舎から出てくると、裕奈は足早に彼に近づいた。


「渉。」

「裕奈?どうした?」


彼の少し汗ばんだ笑顔を見た瞬間、裕奈の中のモヤモヤが口をついて出た。

「今日ね、友達から聞いたんだけど、渉って結構クラスで人気あるんだって。」


渉はきょとんとした顔で裕奈を見た。

「人気?俺が?」


裕奈は少し頬を膨らませながら言葉を続けた。

「そう。渉のこと気になってるって子、何人かいるんだって。」


渉は困ったように頭を掻きながら苦笑した。

「いや、そんなの全然気づかなかったけど…。」


裕奈はその言葉に少し安堵しながらも、自分の中で何を期待していたのかも分からず、曖昧な気持ちのまま問いかけた。

「渉はどう思ってるの?誰か気になる子とか…いるの?」


渉は一瞬真剣な顔になり、裕奈をじっと見つめた。


その視線に裕奈は一瞬息を呑んだが、渉はすぐに照れくさそうに視線をそらした。

「そんなの、いないよ。裕奈はよく知ってるだろ、俺はサッカーに夢中なんだから。」


その言葉を聞いた裕奈は、心の中のモヤモヤが少し晴れた気がした。


それでもどこか落ち着かない気持ちを抱えたまま、彼と別れ際に言葉をかけた。

「……渉がそうなら、いいけど。」


渉は裕奈の言葉の意味を測りかねた様子で首を傾げながらも、軽く手を振って歩き去っていった。


裕奈はその後ろ姿をじっと見送りながら、渉の無自覚な鈍感さに少し苛立ちながらも、ほんの少しだけ笑みを浮かべていた。


彼女自身、この気持ちが何なのか、まだはっきりとは分からなかった。




ある日、同じクラスの女子から放課後に呼び出された渉は、初々しい告白を受けた。

「あの……ずっと前から好きでした! 私と付き合ってください!」


渉はしばらく黙り、相手の真剣な表情を見つめていたが、やがて申し訳なさそうに口を開いた。


「ごめん……俺、そういうの、まだよくわからないんだ。」


そう言いながらも、心のどこかで裕奈の顔が浮かんでいた。

小学校時代からの時間を共有してきた彼女の存在は、渉にとって特別なものだった。


それが「好き」という感情なのか、ただの友情なのかはまだ分からなかったが、心に引っかかる感情がある以上、他の誰かと向き合う気持ちにはなれなかった。


一方、芸能活動が本格化しつつあった裕奈は、学校での活動と撮影の両立に苦労していた。


それでも彼女は弱音を吐かず、「たくさんの人を笑顔にする」という目標に向かって突き進んでいた。


ある夜、撮影を終えて帰宅した裕奈は、リビングで書類を整理している母・千鶴の隣に座った。


「ねえ、お母さん。」


千鶴は手を止めずに軽く返事をする。

「なに?」


裕奈は少し迷ったあと、静かに口を開いた。

「芸能人って、恋愛しないほうがいいの?」


千鶴は書類をめくる手を止め、裕奈に視線を向けた。

「どうしてそんなことを聞くの?」


「今日、現場でそんな話になって。私は仕事が楽しいし、今はそういうこと考えたこともないけど……。」

裕奈はそこで言葉を切る。千鶴は裕奈の表情をじっと見つめた後、静かに言った。


「裕奈。恋愛が悪いわけじゃないわ。ただ、芸能人にとって恋愛は”選択”なのよ。誰を選ぶか、いつ選ぶか、それだけで人生が大きく変わる。」


裕奈は千鶴の目を見つめ返しながら、小さく頷いた。


千鶴は視線を外し、机の上の書類を指でなぞるようにしながら続ける。

「芸能界は物語を売る世界。ファンの想い、スポンサーの期待、事務所の方針……すべてが絡み合って、一人の”高宮裕奈”が作られていく。だから、あんたが誰かを好きになったとしても、それが今の裕奈にとって必要なことなのか、よく考えなさい。」


裕奈は息をのむように母の言葉を聞いていた。


千鶴は淡々とした口調のまま、最後に一言だけ付け加えた。

「一度選んだら簡単には手放せない。それが、この世界のルールよ。」


その言葉が、裕奈の心に静かに沈んでいく。

叱られたわけではない。否定されたわけでもない。それでも、彼女の中で恋愛というものが、どこか遠い世界のものになった気がした。


裕奈はそっと膝の上で拳を握りしめる。

「……うん。わかってる。」


千鶴は娘のその言葉に、短く頷くと、また書類に視線を戻した。


裕奈はその夜、布団に入ってからも母の言葉を思い返していた。


ーー私は、今の私を壊したくない。たくさんの人を笑顔にする、それが一番大事なことだから


そう思えば思うほど、彼女は恋をする自分というものを、自然と遠ざけるようになっていった。




渉と裕奈はお互いに告白を受けながらも、それぞれの理由で相手を断り続けていた。


学校生活の中で顔を合わせる機会はあっても、お互いの距離は少しずつ離れていった。


それでも、ふとした瞬間に目が合うと、どちらからともなく微笑む二人。

まだ幼いながらも、心のどこかで特別な感情を抱いていることを、どちらも無意識に感じ取っていたのかもしれない。


「裕奈が辛い時は俺が支える。」

「皆が知ってるくらいすごい人になる」


二人が交わした小学校の約束は、胸の奥深くにしまわれたままだったが、その存在は、二人の選択に少なからず影響を与えていた。


すれ違いながらも、二人はそれぞれの道で輝くために前進していくのだった。

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