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絡み合う感情編4(もう一つの約束)

渉の言葉や教えは、紗良の心に深く根付き、彼女の成長を促していた。


以前はどこか自信なさげだった紗良の表情には、今では確かな自信と輝きが宿っている。

仕事の現場でも、彼女の存在感が以前よりも格段に増しており、スタッフたちからも賞賛の声が上がっていた。


紗良自身もそれを自覚しており、その裏には渉の支えがあることを強く感じていた。彼の誠実で温かな人柄、そして時折見せる真剣な眼差しは、紗良の胸をときめかせてやまなかった。


「渉さんがいてくれたから、ここまで来られたんだよね……」


ある日、撮影の合間に控室で独りごちた紗良は、渉に対する気持ちがただの感謝ではないことに気づいていた。

それは紛れもなく、恋心だった。


最初は自分の胸に秘めていたその想いも、日が経つにつれて抑えきれなくなっていった。


紗良は次第に渉に対して小さなアプローチを試みるようになる。

たとえば、仕事の合間に何気なく話しかけてみたり、渉が提案した演技のアドバイスに嬉しそうに応えたりする。あるいは、お礼と称して手作りのお菓子を渡してみたり。


「渉さん、いつもありがとうございます。これ、作ってみたんですけど、よかったらどうぞ。」

差し出された袋には、可愛らしいラッピングが施されたクッキーが入っていた。


「ありがとう、でも、無理しなくていいんだよ。」

渉は少し戸惑いながらも礼を言い、受け取った。


そんな彼のさりげない態度にも、紗良は喜びを隠せない。

それどころか、最近では彼の反応を少しずつ試してみるような仕草も増えていた。


ある夜、撮影が終わって事務所に戻る道すがら、紗良は渉と二人きりになったタイミングを見計らって口を開いた。


「渉さん、今日も一日ありがとうございました。」

「こちらこそ、紗良さんもお疲れ様。いい演技だったよ。」


「ほんとに? 渉さんにそう言ってもらえると、もっと頑張れちゃうな。」

紗良は笑顔を浮かべながら、渉の腕にそっと触れた。

その手はほんの一瞬だったが、渉を意識してのことだとわかる仕草だった。


渉はその軽い接触に少し驚きながらも、何も言わずに微笑みを返すだけだった。

しかし、紗良はその表情に少しの希望を見出していた。


「渉さんって、本当に優しいんですね……。誰にでもじゃなくて、特別な人だけに優しくしてるのかな?」


紗良の言葉は冗談めかしているようで、どこか真剣だった。

その目が渉を見つめる様子に、渉は一瞬視線をそらし、困ったように微笑んだ。


「いや、特別ってわけじゃないけど……紗良さんが頑張ってるのを知ってるからね。」


その言葉に、紗良は少し頬を赤く染めた。


またこんな事もあった。


撮影の合間、廊下ですれ違いざまに紗良が渉のネクタイを軽く引っ張る。


「ねえ、渉さん。」

「……ん?」

「渉さんって、ちょっと鈍感ですよね?」

「え?」


紗良は微笑みながら、彼の胸元にそっと手を添え、ネクタイを直すような仕草をする。


「これ、少し歪んでました。」

「あ、ありがとう。」

「いえ。でも、もう少し女の子の気持ちに気づいてあげた方がいいですよ?」


言い終えると、紗良は渉の反応を楽しむように軽やかに去っていく。


彼女の想いは日増しに強くなり、そのアプローチはより大胆になっていくのだった。




ある日の午後、紗良と渉はリハーサル後の控え室で話をしていた。

ソファに座る紗良は、渉の持ってきたペットボトルのお茶を飲みながら、ふと口を開いた。


「渉さんって、どうしてマネージャーになったんですか?」


予想外の問いかけに、一瞬渉は戸惑った。

「えっと……なんで、って……。」


紗良は真剣な表情で彼を見つめた。

「気になってたんです。渉さんって、すごく真面目で、私たちのことを本当に考えてくれるじゃないですか。でも、それって普通の大学生が選ぶ道じゃない気がして。」


渉は少し苦笑いを浮かべた。

「普通じゃない、か……まあ、確かにそうかもな。でも理由は単純だよ。俺、小学校の頃から裕奈を知ってて、ずっと彼女を支えたいって思ってたんだ。」


裕奈の名前を聞いた瞬間、紗良の胸に小さな刺のようなものが引っかかる。それでも表情に出さず、さらに質問を続けた。

「どうして支えようって思ったんですか?」


紗良が渉に問いかけた。

「渉さんがマネージャー補佐になった理由って、やっぱり裕奈さんを支えたいからなんですよね?」


少し驚きながら、渉はうなずいた。

「そうだね。小学校の頃からの縁があって…裕奈には本当にいろいろ助けられてきたから、その恩返しみたいなものだと思ってる。」


紗良は首をかしげる。

「じゃあ、その頃からずっと支えようと思ってたんですか?どうしてそこまで裕奈さんにこだわるんですか?」


紗良の問いかけに、渉は戸惑いを覚えた。

裕奈を支えたいという気持ちは揺るぎないものだったが、「どうしてか」と問われると答えに詰まった。


「……なんでだろう。きっかけは、小学校の時に裕奈がすごく苦しそうだったから、助けてあげたいと思ったんだ。でも、どうしてこんなに強く支えたいと思うようになったのか、自分でもよくわからないな。」


言葉を口にしながら、渉の胸の奥に眠る記憶がかすかに浮かび上がった。

小学校時代の約束とは別の、中学校時代、裕奈にかけた言葉。

励ましたい一心で伝えたはずの何か。


(……何を言ったんだっけ。)


ぼんやりとした輪郭だけが脳裏に浮かぶが、その先の記憶にはもやがかかっている。


紗良はそんな渉の表情をじっと見つめた後、ふっと笑みをこぼした。

「渉さんって、本当に優しいんですね。でも、それだけじゃない気がします。」


その言葉に、渉は思わず紗良を見る。

「何が?」


「んー……なんとなく、です。」

紗良は少し寂しげに微笑んだが、それ以上は何も言わなかった。


渉は紗良の言葉に応えられないまま、目の前の仕事へと意識を戻す。


だが、その夜、部屋に戻った渉は、ふと一人でつぶやいた。

「……俺、本当に裕奈の隣にいる資格なんてあるのかな。」


まるで、自分に言い聞かせるように。


その言葉の意味を、彼はまだ深く考えようとはしなかった。

ただ、小学校の頃の約束だけがずっと胸に残り続けている。


(支えることが、俺の役目だから。)


けれど、心のどこかで引っかかる違和感があった。

何かを忘れている。

ずっと大切にしていたはずの、もう一つの約束を。


だが、今の渉には、それが何なのか思い出すことはできなかった。


その問いに答えを出すには、まだ時間が必要だった。

投稿順間違えてしまった…

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