マネージャー補佐編11(終・渉の決意)
渉は事務所の応接室に呼ばれ、ソファに腰を下ろしていた。
目の前には松永が座り、机にはいくつかの資料が並べられている。
松永の視線は冷静で、すでに状況を掌握している者の余裕が感じられた。
「久住、紗良のマネージャー兼任の件、これが事務所の決定事項と言ったな。」
松永は淡々とした口調で言葉を続けた。
渉はその言葉に一瞬戸惑いを見せた。だが、すぐに手を膝の上で握りしめ、覚悟を決めたように口を開いた。
「松永社長、それでも、僕に話を聞いていただけないでしょうか。」
松永はわずかに眉を上げたが、興味深げに顎を引いて言った。
「話してみろ。」
渉は息を整え、真っ直ぐ松永の目を見据えた。
「相沢さんの仕事を全力でサポートします。それはもちろん、僕の責務として果たす覚悟です。ただ、それだけでは終わらせたくありません。」
松永は無言で渉を見つめる。その隣で千鶴が少し身じろぎし、渉の次の言葉を待っている。
「裕奈さんのそばから完全に離れることには、納得できないんです。」
渉はそう言いながら、言葉を選ぶように続けた。
「僕が裕奈さんのマネージャー補佐として働いていたのは、裕奈さんにとって僕が必要だと信じていたからです。もちろん、今は裕奈さんにとっての支えは僕だけじゃない。でも、僕がもっと成長したとき、再び彼女の主担当に戻れるチャンスがほしいんです。」
松永の顔には何の感情も浮かんでいなかったが、しばらくの沈黙の後、ゆっくりと椅子にもたれかかった。
「久住、それが本気で言っていることなのか?」
渉は少し緊張を滲ませながらも、強い口調で答えた。
「はい。僕は、相沢さんをサポートする中で自分を成長させ、裕奈さんにとってもより大きな支えになりたいと思っています。そのために努力し、結果を示します。」
松永は視線を外して少し考え込んだ後、再び渉に向き直った。
「……いいだろう。ただし条件がある。」
渉は身を乗り出すようにして耳を傾けた。
「紗良を全力で支えろ。その中でお前自身の成長を証明してみせるんだ。そして結果を出せたら、そのとき改めて裕奈の専属に戻るかどうかを考えよう。」
渉はその条件を聞き、深く頷いた。
「ありがとうございます。必ずその期待に応えてみせます。」
渉は力強く頷き、深く頭を下げた。
松永は考え込む様な表情を浮かべ、厳しく言った。
「その成長とやらをしっかり見せてもらう。それができなければ、裕奈の専属に戻ることは難しいぞ。」
「……はい、必ずお見せします。」
松永は少しだけ微笑み、立ち上がると話を締めくくるように言った。
「では、早速動け。紗良のサポートを始めるんだ。そして、自分が裕奈にとっても紗良にとっても必要な存在だと証明してみせろ。」
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松永が部屋を出て行き、渉はしばらく一人その場に残っていた。
緊張で汗ばんだ手のひらを見つめながら、深く息を吐く。
「もっと成長しないと…。」
自分が裕奈や紗良の未来を支えるために、まだまだ足りないと感じる部分が山ほどある。
しかし、松永の言葉の中に、自分に期待をしているわずかな響きを感じ取った渉は、小さな自信を胸に刻むのだった。
(まずはやるべきことを、ひとつひとつ全力でやろう。そしてもっと成長するんだ。裕奈の隣に再び戻るために。)
渉の目には新たな覚悟が宿っていた。




