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試用期間編6(休学)

試用期間が3ヶ月に延長されると決まった翌日、実家に戻った渉はリビングに両親を呼び、改めて報告をした。

弟の健太は高校で剣道をしており、部活で不在だった。


父・誠は新聞を畳み、母も手を止めて椅子に腰を下ろす。二人が揃って自分を見つめる中、渉は深く息を吸った。


「2ヶ月間、試用期間が延長された。それで……大学を休学することに決めた。」


その言葉に、両親は互いに顔を見合わせた。


父が軽く眉をひそめる。

「……合格したのか?」

「いや、まだ。でも、今のうちに手続きをしておいたほうがいいと思って。」


父の表情がさらに険しくなった。

「……待て。合格したならともかく、試用期間が延びただけで、なぜ休学する?」


母も困惑したように渉を見つめる。

「試用期間が終わるまでは、まだ結論を出さなくてもいいんじゃない?」


渉は小さく息をつき、テーブルの上で両手を組んだ。


「正直、1ヶ月やってみて分かったんだ。俺が本気で裕奈を支えようと思ったら、中途半端に勉強と両立するのは無理だって。」


父は腕を組み、静かに問いかける。

「試用期間が3ヶ月に延びたということは、それだけ厳しく見極められてるってことだろ? つまり、お前がこのまま続けられるかどうか、まだ分からないということだ。」

「分かってる。でも、だからこそ今決めたんだ。」

「どういう意味だ?」


渉は真っ直ぐ父を見据える。

「もし今のうちに休学の手続きをしておけば、試用期間の終盤に焦る必要がない。ギリギリになって決めたら、スケジュールの調整も大変だし、どっちつかずになってしまう。俺は今のうちにしっかりと覚悟を決めて、裕奈のために動きたいんだ。」


父は難しい顔をしていたが、すぐには反論せず、考え込むように視線を落とした。


「……要するに、お前は試用期間の延長をチャンスだと考えてるわけか?」

「うん。俺にとっては、試用期間が長くなったことがむしろありがたいんだ。しっかり自分の役割を果たせるようになれば、合格も見えてくる。」


母は心配そうに眉を寄せた。

「でも……もし最終的に駄目だったら?」


渉は少し考えたあと、小さく笑った。

「そしたら、その時はまた考えるよ。でも、最初から失敗したらどうする、なんて考えてたら、何もできないと思う。」


父はしばらく渉を見つめた後、ふっと息をついた。

そして、静かに腕を組み直しながら、ゆっくりと口を開いた。


「……好きにしろ。ただし、何があっても自分の選択に責任を持て。」

「はい!」


母も寂しそうな表情を浮かべながら、最後には小さく微笑んだ。

「応援するわ。でも、無理だけはしないで。」


こうして、渉は両親の了承を得たのだった。



⭐︎



翌日、渉は大学の休学手続きを進めるために学生課へと向かった。


学生課の受付窓口に休学の旨を伝えた。


「理由は……家庭の事情、で良いですね?」

窓口の職員が確認のために尋ねる。


渉は一瞬迷ったが、軽く頷いた。「はい。」


本当は「芸能事務所で働くため」と書くべきなのかもしれないが、説明がややこしくなるのは避けたかった。


窓口職員から必要な書類を受け取り、手続きを済ませると、渉は改めて大きく息をついた。


―本当に、これでいいのか?


迷いがないわけではない。だが、ここで引き返す選択肢はなかった。


そのまま、渉は小沢の携帯に電話し、大学近くのカフェで落ち合うことになった。


「――というわけで、休学することにした。」


コーヒーを口に運んでいた小沢は、わずかに眉をひそめた。


「2ヶ月の試用期間延長で、休学とはね。」

「中途半端にやるより、ちゃんと向き合いたいと思ってさ。」


小沢はカップを置き、軽くため息をついた。


「お前、ついこないだまで普通に就活するつもりだったよな?」

「そうだけど……」

「裕奈さんのために、か?」

「それもある。」渉は静かに答えた。

「でも、それだけじゃない。この2ヶ月で、俺にしかできないことを見つけたいんだ。」


小沢はじっと渉を見つめ、やがて肩をすくめる。


「はぁ……まったく、お前本当に変わったな。」

「変わった?」

「少なくとも、『自己肯定感がやたら低いくせに何となくリーダーになっちまう男』って感じはなくなってきたな。」


渉は苦笑しながらコーヒーを飲む。

「……どういう意味だよ。」


小沢は腕を組み、メガネを押し上げながら少し考えるように視線を逸らした後、言葉を続ける。


「お前、引きずってるだろ。高校の時の怪我とか、期待されてたのに何もできなかったってやつ。妙に一歩引いた感じで、だけど放っておけなくて俺みたいなやつにもお節介焼いてさ。」


渉は言葉に詰まる。


「自己肯定感は低いくせに、目の前で困ってるやつを見たら放っておけなくて、それでいつの間にか仕切る役になってる。で、結果的に周りがついてくる。」

「……甘ちゃんって言いたいのか?」

「まあ、そうだな。でも、それが悪いとは思わねぇよ。お前のそういうところ、個人的に気に入ってるしな。」


小沢はニヤリと笑うが、すぐに真剣な表情に戻る。


「でも今のお前は、違うよな。」

「違う?」

「今は自分がどうしたいかを考えて動いてる。前みたいに流されて仕方なくじゃなくて、ちゃんと自分の意志で選んでる。」


小沢はメガネ越しに渉をじっと見つめる。

「自分がどうしたいか、それをちゃんと考えて、動いてる。そういうお前は、俺も初めて見る。」


渉は一瞬言葉を失う。


「ま、どう転ぶか分からんが、お前が決めたことなら見守ってやるよ。せいぜいあと2ヶ月で結果を出せよな。」

小沢はそう言って、笑みを浮かべながら軽く渉の肩を叩いた。


渉はその言葉を噛み締めながら、心の中で新たな覚悟を決める。


――この2ヶ月で、俺にしかできないことを見つける。必ず。

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