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小学生編3(学芸会)

小学校5年生の時の学芸会で、裕奈は全校生徒の前で披露される劇の主役に選ばれた。

教師からの推薦だったが、それが彼女にとって思いもよらない試練をもたらす。


放課後、学芸会の練習が終わり、クラスの女子たちが低い声で囁いているのを裕奈は聞いていた。

「高宮、また先生にえこひいきされたんだろうな。」

「顔がいいだけで、別に上手くもないし、なんで主役なんだろうね。」


裕奈は黙ってその場を離れ、隅の机に座って俯きがちになる。

まるで、自分がそこにいることが許されないかのように、周りの雑音を無視していた。


裕奈は普段から自己主張が控えめで目立たない性格に加え、容姿が目立つせいで嫉妬の対象になりやすかった。

同級生の女子たちは、陰で裕奈を非難し、劇の練習にも協力的ではなかった。


その様子を見ていた渉は、裕奈が一人で台本を握りしめながら、居場所のないような顔をしているのに気づいた。

放課後の教室で、裕奈が隅の机で俯いているところに声をかける。


「裕奈、大丈夫か?なんか元気なさそうだけど。」


裕奈は少し驚いたように顔を上げたが、すぐに赤くなった目を伏せて小さな声で答える。

「みんな…私のこと嫌いみたい。主役なんてやらなきゃよかった。」


渉はその言葉に少しだけ苦笑いの表情を浮かべる。


「何言ってんだよ。主役に選ばれたのは裕奈が頑張ってるからだろ?それに…俺は裕奈が主役で良かったって思うよ。」


裕奈は驚き、少し目を見開く。

「そう…思う?」

「当たり前だろ。裕奈が主役やる劇、俺も楽しみだし。」


その言葉に少しずつ元気を取り戻した裕奈だったが、練習での女子たちの態度は変わらない。

そこで渉は行動に出ることを決意する。




翌日、クラスの休み時間に渉は男子たちに声をかけた。

「おい、みんな。女子たちが練習うまくいかなくて困ってるみたいだから、俺たちで盛り上げようぜ。」


男子たちは最初は面倒くさそうにしていたが、渉のリーダーシップに引っ張られる形で協力的になっていく。渉は女子たちにも直接声をかけた。

「みんな、文句ばっかり言ってたら劇が台無しになるぞ。どうせやるなら、ちゃんと練習して一番いい劇にしようぜ。」


クラスのリーダーのその真っ直ぐな目と言葉に、女子たちも徐々に態度を改め始めた。


そして、クラス全体が一つにまとまって、学芸会の練習が急速に進み始める。


女子たちも渉の真剣な態度に少しずつ心を動かされ、積極的に練習に参加するようになった。




学芸会当日——。体育館の舞台袖に、裕奈は立っていた。


カーテンの隙間から客席をのぞくと、たくさんの人が座っている。

両親、先生、クラスメイト、それに地域の人々まで。多くの視線がこれから自分が演じる舞台に注がれる。


——大丈夫かな。ちゃんとできるかな。


練習では何度も繰り返してきたはずなのに、本番を前にすると不安が募る。

台詞を忘れたらどうしよう。足が震えそうだった。


その時、不意に肩に手が置かれた。


「裕奈。」

振り返ると、渉がそこにいた。

「裕奈ならできるよ。俺も応援する。裕奈を支えるから。」


いつもと変わらない、まっすぐな瞳。

裕奈は一瞬驚いたように渉を見つめたが、すぐに小さく笑った。


「……うん。ありがとう。」

不思議と、緊張が和らいでいく。渉がそう言うなら、大丈夫な気がした。


——カーテンが開く。


舞台に立つと、スポットライトの光が裕奈を包み込む。客席のざわめきが静まり、幕が上がった。


物語が進むにつれて、裕奈は次第に自分の演技に入り込んでいった。


そしてクライマックス——。


裕奈の役は、大切な人との別れを迎える少女だった。

「……さよなら。でも、私はずっとあなたのことを忘れない。」


涙ながらに紡がれたその言葉に、観客は息をのんだ。

体育館には静寂が広がり、その直後、割れんばかりの拍手が響き渡る。


舞台袖で見守っていた渉も、満足そうに頷いた。

裕奈は、この瞬間を一生忘れないと思った。


劇が終わり、観客席の賑やかな拍手が続く中、裕奈は舞台の裏で渉を見つけると、駆け寄った。

「渉くん…本当にありがとう。渉くんがいなかったら、私はきっと…」


渉は少し照れたように笑って肩をすくめた。

「俺は別に何もしてないよ。裕奈が頑張ったからこそ、成功したんだ。」


裕奈はその言葉に心から感謝し、渉を見つめながら、小さく笑った。

「渉くんがいてくれたから、私はあの舞台で笑顔でいられたんだよ。ありがとう、渉くん。」


その瞬間、裕奈の心に新しい決意が芽生えた。

演技をすることで、人々に笑顔を届ける。

その喜びを知った裕奈は、さらに大きな夢を抱くようになった。


「私ね、演技してるとき、みんなが笑顔になってくれるのがすごく嬉しかった。もっとたくさんの人を笑顔にしたいって思ったんだ。」


渉はその言葉にうなずき、力強く答えた。

「それなら、俺も応援するよ。裕奈が頑張るなら、俺も頑張る。」


こうして裕奈は演技をすることで人を喜ばせる喜びを知り、渉は「ヒーロー」として裕奈を支える決意を新たにするのだった。

学芸会は現在は学習発表会となっており、劇も一人だけが主役で目立つという事はないと思いますが、目を瞑って頂けると(ーー;)

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