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短編集

わたしの友達

作者: 汐見かわ


 美里はゆるく巻いた長い髪をひと房耳に掛けて、アイスカフェオレを飲んだ。ほんのり色付いた唇がストローを咥えている姿がとても可憐で私はいつまでも見ていられる。

 カランと音を出した氷をさらにストローでかき混ぜて、グラスの中で氷を転がしていた。

 大きなガラス窓から入る光が美里の栗色の髪をいっそう明るく見せ、雑誌を切り抜いたような、有名人の写真集のような、売り物にできるくらいの絵面だと思った。写真を撮ってスマホに保存しておきたい。 女も綺麗な女性を見るのは好きなのだ。


「そう言えば、この前美里が西口で声掛けられたって言ってたでしょ? 私もそれにあったかも」


 美里の向かいに座っている結奈がフォークとナイフで器用にガレットを切っている。右手の薬指には小ぶりの指輪が光っていて、仲の良い彼氏がプレゼントしてくれたものだそうだ。

 すらりと伸びた細くて白い指が小刻みにナイフを動かし、ひと口大に切ったガレットを口に運んでいく。唇の端についたクリームを指でぬぐう仕草にどきりとする。


「スーツを着たサラリーマン風の男が近付いて来て、三万(・・)って言ってきた」

「三万って何?」

「わかんない。怖くない?」


 美里も結奈も二人とも美人で、私が友達としてこの場に一緒にいて良いのかとほんの少し疑問に思っている。

 三人で道を歩いていると、すれ違いざまに時々振り返る男性がいるけれど、それは私ではなくて二人を見ている。私はその時は透明人間にでもなった気になる。その男性には私は見えていないのだ。

 最初の頃はとても傷付いたし、悲しくもなった。けれど、最近は慣れてどうでも良くなった。二人は誰がどう見ても美人なのだ。美人を目で追ってしまうのに男も女も関係ない。仕方のない人間の性。私も振り返るもの。


「怖いからすぐに駅に逃げたよ。そんな風に見られてるかと思うとショックだった」

「そんなことないよ。結奈はそんな見た目じゃないよ、大丈夫。とりあえず誰にでも声掛けてるんじゃない? 数打てば当たる的な」


 池袋駅の西口で待ち合わせをすると、ちらほら声を掛けられると聞いたことがある。

 西口から少し通りを入った先はあやしいネオンの光るビルやホテルが多く、あまり好きではない。そういう場所なのだと思う。


「結奈に声を掛けた人ともしかしたら同じ人かもね。私の時もサラリーマンだったし。私は五万(・・)って言われたけど」


 結奈はナイフでガレットを切る手をぴたりと止めて、どこか一点を見つめた。そしてすぐにひと口大に切ったガレットをさらに細かく刻んでいる。テーブルが水平でないらしい。ナイフを動かす振動で、丸いテーブルがガタガタと揺れる。

 私はカップに入った紅茶がこぼれないように、テーブルを少し抑えた。


「……それついて行ったらどうなるんだろう」


 美里はカフェオレのグラスを持ち上げて、下に紙ナプキンを折り畳んで敷いた。グラスの下の水滴が紙にじわりと染み込んだ。


「写真とか撮られて、死ぬまで強請られるんじゃない? お金欲しさでついて行ったら終わりだね。そんなことは死んでもしないけど。ねぇ?」


 ストローを咥えながら、美里が尋ねた。ストローには唇と同じ色が少しついていた。


「相場はどれくらいなのかな」

「一万くらいじゃない? アプリとか使えば効率良さそうなのに。あ、サクラも多いから逆にアプリはダメなのかも」

「美里、詳しくない?」


 結奈がくすりと鼻で笑ってガレットを口に運んだ。一瞬、二人の間の空気がピリと緊張感を含んだ気がした。


「……ネットのニュースで見たんだ。ついそういうニュースを開いて見ちゃうんだよね」


 美里はカフェオレの氷をからからと混ぜながら笑っている。


「ちょっとそれわかるかも」

「別に知ってどうこうするわけじゃないけど、なぜか見ちゃうよね」

「そういうのあるよね。わかるぅ」


 私達は集まればこんなざっくばらんな会話をいつもしている。二人とも近寄り難いくらいに綺麗だけれど三人で集まればこんな感じ。大した会話はしていない。

 二人は自分の身なりには気を使っていると思うけれど、その努力を表に出すことはしないし、ひけらかしたりもしないし、他人の容姿をとやかく言うこともしない。本当に綺麗な人は心も綺麗なのだ。


「そう言えば、千花も前に声を掛けられたって言ってたよね。それも西口?」

「え? うん。そうだったかな?」

「あ、それ私も聞いたかも。うん、西口だったよ。怖いって言ってて、会った途端にしがみついて来たもん」

「そうだったかな……」

「もしかして同じ人じゃない? 怖いね」

「千花は何て声を掛けられたの?」


 二人はじっと私を見つめている。私はその時のことを思い出していた。確かあの時も、二人が言っていたようにスーツを着たサラリーマンだった。急に真っ直ぐと近づいて来て、確かこう言ったんだ。


十万(・・)……」


 その言葉に二人は固まっていた。

 美里も結奈も本当に綺麗で性格も良くて、人のことを悪くも言わない素晴らしい人たち。

 これからもずっと友達でいようね。




2021年10月作成。

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