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9.あけましておめでとうございます

「あけましておめでとうございます。

 今年もよろしくお願いします」

 

 そう言ってやって来たのは紫子(ゆかりこ)さんのお隣の

 一ノ瀬(いちのせ)六月(むつき)さんでした。



「最初、紫子(ゆかりこ)さんのうちへ行ったんだよ?

 だけど誰もいなかったから、こっちかなって」

 言いながら、一ノ瀬(いちのせ)さんは頭を搔く。


 あけましておめでとうって言っても、もう今日は8日。

 七草粥も終わって、後は11日の鏡開きを残すだけに

 なっているお正月。


 一ノ瀬(いちのせ)さんは、このお正月で色んなところを

 回っていたみたいで、紫子(ゆかりこ)さんと瑠奈(るな)さん、

 それから玉垂(たまたる)が彼に会ったのは、実は今日が

 今年最初なのです。だから、『あけましておめでとう』。


 お菓子好きの紫子(ゆかりこ)さんは、何度も一ノ瀬(いちのせ)邸に

 行ったんですけどね、結局会えなかったんです。

 今日、必要以上にいじけたのも、この一ノ瀬(いちのせ)さんに

 会えなかったからかも知れません。


 ……いえ、正確に言えば、一ノ瀬(いちのせ)さんの作るおやつに

 ありつけなかったから……?


 そして来客は、一ノ瀬(いちのせ)さんだけではありません。

 当然、ホネホネの梨愛(りあ)さんも一緒でした。

 カラカラ骨を鳴らしながら、梨愛(りあ)さんも

 相変わらず元気なようです。

 ……ホネホネだから、体調の変化なんて、全く

 分かりませんけどね?


 一ノ瀬(いちのせ)さんと梨愛(りあ)さんは2幼なじみ。

 だから知り合いも同じ。

 正月巡りももちろん、2人で回ったのでしょう。

 姿を見せられない梨愛(りあ)さんですから、きっと

 こっそり会いに行ったのでしょうけれど、2人の様子を

 見れば満足そうだから、よいお正月になった

 ようですね。

 

 冬は、梨愛(りあ)さんにとって、良い季節なのです。

 ホネホネの上から服を着て、それからフードと

 マスク。マフラーを巻けば、梨愛(りあ)さんが

 ホネホネってことに、誰も気づきませんものね?


 え? なんでホネホネなのって?

 それは過去のお話を見てくださいね。話すと長く

 なりますし。


 

 ──と、それはさておき、ホネホネ梨愛(りあ)さんと

 一ノ瀬(いちのせ)さんが新年の挨拶に来てくれたのです。

 今年もまた、美味しい一年が始まるわけです!

 

 彼の手には、もちろん一ノ瀬(いちのせ)さん手作りお菓子。

 何にしようかと迷ったようですが、結局お正月と

 言うこともあって、縁起物の花びら餅を持参してくれた

 ようです。

 

 花びら餅……知ってます?

 

 お餅に甘く煮詰めたゴボウが入っているんです。

 甘じょっぱくて、優しい味のお餅。

 まさかのゴボウをスイーツにするなんて、

 昔の人の発想は、まさに斬新ですよね。

 

 平安時代にできたこの『花びら餅』。

 もともと宮中では、長寿を願う新年の『歯固め』の

 儀式として、大根や猪、押鮎なんかを食べる習わしが

 あったのですが、それをお菓子に模したのが

 この『花びら餅』なのですって。


 謂れは諸説あるのですが、そもそもこのお菓子は

 平安時代の大昔に生み出されたお菓子。

 そんなに大昔の話ですから、その成り立ちも

 なにが正しいのか正しくないのかなんて、そんなのは

 正確には分かりません。

 ただ分かっているのは、お正月のお菓子だと言うこと。

 子孫繁栄、長寿を願っての縁起物。

 材料はちょっと変わっていますけれど、とにかく

 お菓子は美味しければいいのです。美味しければ。

 



「うわぁ! 花びら餅!

 これ、なかなか買わないんですよね……」

 紫子(ゆかりこ)さんも瑠奈(るな)さんもそう言って

 歓声を上げる。


「ふふ。そうでしょう。急に食べたくなるんだよね。

 でもこれは、ちゃんと作ったんだよ?

 ゴボウを甘辛く煮て、それから中の餡は味噌餡に

 してみたんだ。味噌と白あんのコラボって、なかなか

 合うんだよ?」

「これがまた、すごく美味しいの!」

 ホネホネ梨愛(りあ)さんが一ノ瀬(いちのせ)さんの話を

 奪うように話し、それからうっとりと溜め息を漏らす。


 ですよね。一ノ瀬(いちのせ)さん作なら美味しくないはずが

 ありません。


 そこに瑠奈(るな)さんも会話に入る。

 

「あ、そうそう。私もちょうど、京都に行ったんです。

 このお正月で。

 で、その時に抹茶も買ったので、せっかくですので

 お茶を点ててみんなで飲みませんか!?」

「お茶! 賛成!

 ボク、お茶の道具持ってるよ!」

 ふんすふんす! と玉垂(たまたる)は鼻息が荒い。

 実は抹茶好きの玉垂(たまたる)です。


「……なんでそんなの持ってるの」

 このデカ猫は……と言いたげな一ノ瀬(いちのせ)さんを

 尻目に、玉垂(たまたる)はみんなの答えも聞かずに

 いそいそと野点の席を自慢の庭に用意する。


「じゃあ、私も家からお土産持ってきますね!」


 瑠奈(るな)さんもやる気満々。

 人の話は聞かずに、ウキウキと帰って行った。


「あー……ま、いっか。そろそろお昼でもあるし……。

 玉垂(たまたる)……。台所、借りれるかな?

 ちょっとしたランチも用意するから」

「え。まさかの一ノ瀬(いちのせ)さんのランチ!?

 ナポリタン、麺細めのナポリタンが食べたい!

 粉チーズ多めで!! お正月メニュー飽きちゃった」

 紫子(ゆかりこ)さんがここぞとばかりに存在を

 主張する。


「はいはい。ナポリタンでもピザでも作りますよ。

 なんならお餅入りグラタンとか……」

「グラタン……!」

 玉垂(たまたる)の目がまた光る。


「あ! でもとろけるチーズなかった。

 今から買ってくる……! 待っててよ!?」

 叫んで玉垂(たまたる)も、家を飛び出して行きました。


「ここは、いつ来ても賑やかね……」

 と梨愛(りあ)さんは微笑む。





 今年のお正月はあたたかくって、

 外でのランチも寒くなさそう。



 さてさてこれで、玉垂(たまたる)の夢のお話は

 おしまい。

 けれど今年は始まったばかり。


 昨年は、大変お世話になりました。

 今年もまた一年、めげずにどうぞ

 よろしくお願い致します。


 そして成人の日、おめでとうございます!

 今年一年……と言わず、これからの人生が

 みなさまにとって良き日々であります事を

 願っています。





     令和6年1月8日(成人の日) YUQARI

 

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