7.微笑む横顔。
キョトンとするボクの頭を撫でてくれた玖月善女さまの手は
とてもいい匂いがした。盛誉とは違う、繊細な
細い指先。
ボクは安心しきって、ゴロゴロ……と喉を鳴らす。
もう、死んでいたっていい。
ボクはずっと、玖月善女さまや盛誉の傍に
いるからね?
そう、思ったんだ。
「お待たせ致しました」
玖月善女さまに仕事を言い使っていた侍女は
すぐに戻って来た。
その手には『三方』……あ、ほら、三方って
鏡餅とか乗せてるあの台の事だよ。
それを捧げ持って、やって来たんだ。
『あ』
思わず声が出た。
だって、その三方の上には金平糖。
あの、ボクが落とした金平糖が乗っていたから。
そう、あれは間違いなくあの時の金平糖。
確かにね、盛誉たちの生きていたあの時代にも
金平糖はあったけれど、でも現代みたいに大きい
金平糖は見かけたことがない。形だってもっといびつで
色も綺麗じゃなかった。
だから分かる。一目見れば分かる。
あの金平糖は、あの時落とした金平糖なんだって。
ボクはぐっと息を呑む。
『玖月善女さま?』
思わず発した言葉は、猫の声じゃなかった。
ちゃんとした言葉。
「玉垂。大丈夫。
わたくしはお裁縫が得意なのですよ?
こうして金平糖を──」
言って玖月善女さまは、金平糖を
針でつつく。
するとシュルシュルシュル……と金平糖から金糸のような
糸が生まれた。
『え?』
「金平糖は、こんな風に使うのですよ?」
『そう……だったっけ?』
食べ物じゃなかったっけ……? そんな疑問が頭を
よぎったけれど、深くは考えなかった。
そうなんだ……って思っただけ。
盛誉は笑う。
「そうだよ。知らなかったのか?
けれどまだ直らない。この糸で縫ってもらはないとね?
直るまでの間、私と一緒に遊ぼうか?」
そう言って盛誉は、小さな毬をボクに転がした。
鈴の入っている、ボクのお気に入りだった毬。
盛誉が死んだあの時に、一緒に燃えて
しまったあの小さな毬。
この毬も、玖月善女さまが縫って、作って
くれたんだっけ……。
──チリ……チリン……
つつくと可愛らしい音が鳴る。
「まあ、ずるい。わたくしも遊びたいのに」
ぷくっと玖月善女さまのほっぺが膨らむ。
それを見て盛誉が笑った。
「母上でなければ直せません。お諦めください」
「裁縫くらい、あなたも出来るでしょう?」
「確かに出来ますが、母上ほどではありません。
それにそれは、玉垂の大切な人の持ち物
なのでしょう? 丁寧に直さなければ……」
その言葉に、玖月善女さまはホッと息を吐く。
「そうでした。
それでは仕方ありませんねぇ……」
困った顔をしながらも、玖月善女さまはフフと笑う。
困ったと言いながら、なぜだか嬉しそうにすら見えた。
「玉垂の大切な人の物ですもの。
丁寧に縫わないと……」
そう言う玖月善女さまの横顔は、とても愉しげ
だった。




