5.ポロポロ涙。
「う。……ううううぅ……」
玉垂は、泣きながら走りに走ったのです。
走りに走って、気がついたらいつの間にか
自分の部屋に着いていました。
どう帰って来たのかも思い出せない。
途中、コケてしまった気もします。
手に持っていた薄桃色のハンカチも金平糖も
今は砂がついて、泥だらけです。
「うぅ……ぐすっ……ぐすぐす……」
泥だらけの金平糖をひとつつまんで
鋭い爪の先で泥を払って口に入れました。
「う……ジャリジャリする……」
砂糖のジャリジャリなのか、砂のジャリジャリなのか
分からない。
甘いはずの金平糖。
だけど味も香りも分からない。
分かるのは、とんでもない事をしてしまったと
言う事だけ。
「う、うぅ……うわ、うわぁーん。うわぁーん……」
さっきは泣けなかった。
泣いちゃダメだった。
だけど、今ならいいだろう?
ねぇ、ボク悪い子なの? 盛誉、ここに来て
教えてよ!
ボクはどうすれば良かったの…………!?
だけど盛誉はいない。
玖月善女さまもいない。
遠い遠い昔に死んじゃったから。
もう、ここにはいないから。
だから何も教えてくれやしない。
2人が好きだった金平糖は、ここにあるのに、
でも……2人はいない。2人だけいないんだ──。
「会いたい。
……会いたいよぅ」
ポロポロ涙を零しながら、玉垂はそっと
目を閉じました。
何が悲しいのか分からない。
なんで涙が出るんだろう?
ハンカチを破いてしまった事なのか、それとも
紫子さんと瑠奈を悲しませて
しまった事なのか。
あぁ、もしかしたらさっきコケて、膝がひどく
痛いからなのかも。
それとも盛誉と玖月善女さまがここにはもう
いないから?
寂しいのか痛いのか。
傷ついたからなのか、傷つけたからなのか。
何が何だか分からない。
分からないけれど、すごく悲しくて泣きたくて
玉垂は顔を伏せたのでした。




