4.不動の八ツ橋。
結局、玉垂は破れてしまったハンカチと
落ちてしまった金平糖をもらって、家に帰りました。
──食べない! 絶対食べないから……!!
そう瑠奈さんに言うと、瑠奈さんは
困ったような、悲しそうな顔をして言いました。
──ねぇ玉垂? 本当に気にしなくて
いいのよ?
そう言われたけれど、心のモヤモヤは晴れない。
きっと、そんな理由からじゃないんだ……。玉垂は
口を開く。
──そんなんじゃ……
──紫子さんは気分屋ですからね、
すぐにまた、いつものニコニコに戻るんだから。
ね?
──………………。
瑠奈さんの言葉に、玉垂は一応は頷いて、
それから何故か、泣きそうになったのです。
でも、なぜ泣きたくなったのかが、分からない。
落ちた金平糖を食べると言ったのは、なにも
勿体ないって思ったからじゃない。
そうも思う。
……確かにそれもあったけれど、ハンカチを爪で
引き裂いて紫子さんを悲しませた上に、
せっかく買ってきてくれた金平糖を捨てる羽目に
なった瑠奈さん。
『ボクたちのために買ってくれたのに……』
そんな想いも溢れてくる。
もう、申し訳なくって、どうしたらいいのか
玉垂には分からなかったのです。
たくさんあるから、それでいい?
紫子さんは気分屋さんだから
気にしなくていい?
ううん。そんなんじゃない。
そんなんじゃないんだ……!
気遣ってくれる瑠奈さんの気持ちも分かる。
大丈夫だって言ってくれる優しさも分かる。
──ボクだって、ちゃんとそれは分かるよ……!
でも、でも……だけどそれだと
自分で自分が許せない……っ。
悲しそうに微笑む瑠奈さんの顔を見ていることが
出来なくて、玉垂は必死に涙をこらえ
どうにかそれだけ言うと、破れた黄色のハンカチと
それから落ちた金平糖をかかえて、一目散に
自分の家へと帰ったのでした。
まるで、逃げるみたいに。
だけどしょうがなかったの。
走って逃げないと、零れてしまいそうだったから。
ハンカチから零れた金平糖みたいに、
ポロポロ……ポロポロ、涙が
零れてしまいそうだったから……。
後に残された瑠奈さんは、
小さくため息をつきました。
あぁ、やっぱりお土産は、王道の八ツ橋にすれば
良かったかしらね……って。




