3.夢のお菓子。
後に残された玉垂と瑠奈さんは
呆然。。。
もうこうなったら、紫子さんの気持ちが
復活するまで待つしかない。
瑠奈さんは苦い顔を玉垂に向ける。
「玉垂……ごめんなさい。私がふざけたから」
「ううん。……ボクも悪かったの。
本当はね、嬉しかったんだ。今はありふれすぎて
手にすることすらしなくなった金平糖だけど、
久しぶりに見たから浮かれちゃった。
盛誉と玖月善女さまを久しぶりに思い出せたから
嬉しくてつい……」
玉垂は悲しげな微笑みを見せる。
「だけどね、紫子さん、怒らせちゃった。
ごめんね、せっかくのお土産だったのに
こんな事になっちゃって……」
パラパラと散る金平糖に、玉垂は目をやる。
床に散らばった金平糖は、まるでおはじきみたいに
キラキラと輝いた。
汚れなんてついていないとは思うけれど、でも
落ちちゃったから……と、玉垂の落胆は
隠せない。
それを見て、瑠奈さんは慌てて手を振る。
「あ、平気平気。まだいっぱいあるし。
色々種類があって、目移りしちゃって
結局買いすぎちゃったの。だから気にしないで」
テへへと笑いながら、瑠奈さんは片付け始める。
だけどそれより先に、玉垂の手が伸びた。
「ううん。ボク食べるよ」
「え"。食べる?
ダメダメ。ダメですよ。これは落ちたのだから──」
「ううん。平気だよ。子猫の時はね、落ちてるの
いっぱい食べたもの。だってボク、野良猫だったし。
野ねずみとか虫とか? でも平気だったもの。
だから──」
「──ダメです!
玉垂はもう子猫じゃないんだから。
金平糖だって、まだたくさんあるから気にしないの!」
思わず叫んで、瑠奈さんはハッとする。
「……」
黙り込む玉垂に、瑠奈さんは
小さく溜め息をついた後、優しく微笑みかけて
新しい金平糖をサラサラと出してくれました。
「ほらね? まだまだたくさんあるんだよ?
落ちたのは、ほんの少しだけだから」
「……うん」
頷いて玉垂は、瑠奈さんが新しく出してくれた
金平糖を食べました。
カリ……カリカリ……。
けれどさっきみたいな、夢のような気持ちには
とてもなれませんでした。
心に小さな穴が空いたような、そんな感じだったのです。




