2.薄桃色ハンカチ。
その言葉を聞きながら、不意にギョッとなったのは
瑠奈さんです。
「え? ちょ待って玉垂。まさかこれって
食べちゃダメなやつだった!?」
焦って瑠奈さんは、金平糖を出した紫子さんの
ハンカチを自分の方へと引き寄せる。
「え……! 今更? ……いや、まぁ、本当の猫とかには
やっちゃダメだろうけど……でもボクもう、いっぱい
いろんなの食べてるでしょう!?」
玉垂はそう言って、耳を伏せました。
「ほ、ほら! ケーキだってチョコだって、……それから
辛いものだって食べられるようになったんだもん……!」
文句を言いながら、取られちゃ敵わない……! と
紫子さんの薄桃色のハンカチを、押さえに掛かる。
「そ、そうだけど……だけど玉垂?
猫って本当は食べちゃダメなんだよ? 甘いものとか
特にチョコとか、食べたら死んじゃうんだよ!」
「もう! 瑠奈さん! ボク死んでないでしょ!?
こんなに長生きしてて、今更死んじゃう心配とか
意味ないんだからね……!」
そうなんです。さっきも言いましたけれど、この
デカ猫玉垂は、今年で442歳。
かなりのご高齢なのです。
そもそも、色々不思議な猫なので、もしかしたら
妖怪なのかも知れない……と最近は玉垂自身も
そう思い始めているところなのです。そんな玉垂を
『猫』に分類することの方が、そもそもの間違い──
「長生き?
いやいや、だからこそ健康には気をつけないと」
「ボク、おじいちゃんじゃないし……!!」
んー!! とばかりに引っ張りあったハンカチが
ビリビリビリビリ……──
「あ。」
「あぁ……」
「あ"あ"あ"あ"あ"────!!!!!!」
はい。ここでクエスチョン。
思わず呻いたこの『あ』。誰の発した『あ』なのか、
分かりましたか?
内訳はですね、
最初が玉垂。
2番目が瑠奈さん。
そして最後が紫子さんの順になっています。
みなさま分かりましたでしょうか?
え? 分からなかった?
はぁ……まだまだ読みが足りませんよ。
しっかりついて来てくださいね? そんなんじゃ
YUQARIキラーにはなれません。
え? なりたくない。……はい。ごもっとも。
「いやあぁぁぁあ……! このハンカチ
わたしのお気に入りだったのにぃ……」
うわぁんとばかりに紫子さんは、自分の
ハンカチを抱きしめました。
パラパラ……と散る金平糖のお星さま。
まぁ、そりゃそうですよ。ハンカチの上に
あったんですからね。金平糖。
「あぁ……っ! 金平糖がぁ!!」
大好きなお菓子も台無しにしてしまって、
紫子さんの落胆は凄まじい。
物凄い顔で、もう、みんな嫌い……! とばかりに破れた
ハンカチを放り出して部屋へこもってしまったの。
慌てたのは玉垂でした。
「あ、ご……ごめん。ごめんなさい。
紫子さん待って……待ってよぅ……っ」
待ってと言われても待たないのが紫子さん。
アサリのようにググッと部屋の扉を閉めて、そして
それっきり……。
玉垂の声は、ただただむなしく
宙に舞ったのでした。




