1.夢見る金平糖
キラキラ光る金平糖。
紫子さんが広げた薄桃色のハンカチの上に
雪のように散らばって、まるで花が咲いたように
微笑みかけてくる。
瑠奈さんがこのお正月休みに
京都へ行ったらしいのです。なんでも瑠奈さんの
お母さんの実家が京都にあるのだとか。
金平糖は、その時のお土産なのだそうです。
キラキラ光るその金平糖は、色んな色のお星さま。
ただただ甘いだけの砂糖菓子ではなくって、
味にも工夫がこらしてあるから面白い。
黒糖味に抹茶味。
フルーツの味もあるし、肉桂や酒粕込みのものだって
あるらしいから、今どきのお菓子は侮れません。
京都のお土産と言えば、金平糖と言うよりも
八ツ橋とかお団子とかを思い浮かべてしまうけれど
瑠奈さんの目を一番引いたのが、この金平糖。
なんだか懐かしくって、可愛くって種類だって豊富。
とても美味しそうで、たまには食べてみたいなって
思ってしまったのです。
だから思わず、真っ先に買ってしまったが、
この金平糖なんですって。
「うわぁ。ボク、これ知ってるよ。
金平糖って言うんでしょう?」
遊びに来ていた玉垂が目を輝かせて
言いました。
玉垂はね、子どもみたいな
口調だけれど、人間の子どもではなくって
大きな大きな黒い猫なのです。
クマのように大きな玉垂は、一見すると
着ぐるみの中に人が入ってるみたいに見える。
どこかのゆるキャラなんじゃないの? って思うほどに
現実離れした姿をしている玉垂は、人の言葉を
理解して話すだけじゃなくて、誰にも見えないという
特殊能力すら持ち合わせているから、本当に
不思議な猫なのです。
──え? ちょっと待って。誰にも見えないの?
だって、紫子さんと瑠奈さんには
見えてるじゃない?
なんて声が聞こえそうなんですけれども、ふふふ……。
でも、本当に見えないのです。
ひょんな事がありまして、今ここにいる
紫子さんや瑠奈さんには見えるんです。
え? 適当過ぎないかって? いいえ。だって、本当に
そうなんだもん。
と言いますか、紫子さんの不思議能力のせいで、
見えないはずの玉垂も、何故だか簡単に
見つかって、捕まってしまったんですよね。
紫子さんに。
だからその日以来、3人はお友だち。
たまにこうして、なんとはなしにお茶を飲んだり
話をしたりして、一緒に過ごすのです。
でも、不思議ですよね。
3人一緒にいると、玉垂が本来『見えない何か』
ってことを忘れてしまいそうになるんですから。
だってこんなにも存在感があるのに、見えないなんて。
いえ、見えない……と言うより認識できない?
記憶にとどめておけない……と言った方が
正しいでしょうか?
とにかく玉垂は、買い物やお出かけなんかを
普通にしているのに、誰も驚かないし騒ぎにも
ならない。そんな、便利で不思議な能力を持つ
デカ猫さんなのです。
そして今、そのデカ猫の玉垂がウキウキと
話をしているのですから、なんとも不思議な
光景です。
原因は久しぶりに見た、この昔懐かしの金平糖。
玉垂が産まれたのは、今からもう四百年も
前の話で、その時代からこの金平糖はあったのです。
それがことのほか、嬉しかったようで、玉垂の話は
とどまることを知らない。
「今では、どこにでもある金平糖なんだけど
昔は本当に貴重だったんだよ!」
クリクリお目々を輝かせ、玉垂は金平糖を
1つつまみ上げる。それからとても大事そうに器用に
爪の間に挟んでから、それをペロリと食べました。
「うぅ〜ん。甘ぁーい!!」
ぷるぷるっと震えて、玉垂は手を頬に
当てました。
「あのねあのね、金平糖はね、盛誉のお母さんの
玖月善女さまが好きだったの。
あの時は、簡単に手に入るものじゃなかったん
だけどね、盛誉がどこからかもらってきた時には
必ず持って来てくれたんだ。
あ。もらうだけじゃなくって、盛誉が自分で
買うことだってあったんだよ? 盛誉あれでいて
領主さまの息子だしね?」
偉ぶっていないから、そうは見えないけどねーと
言いながら、玉垂は始終ご機嫌で耳を
パタパタとさせている。
「ボクは猫だから、食べさせてもられなかったけれど
すっごく美味しいんだろうなって思ってた」
言いながら玉垂は、カリカリと口の中の
金平糖を噛みました。
金平糖はね、作るのに時間が掛かるんだよ。こんなに
大きな粒にするには、何日かかるんだろね? とか
作る時に失敗して割れたり欠けたりするんだよ?
どうしてこれは、こんなに大きいのかな? どうやって
作ったのかな? なんて不思議そうに言いながら
器用に爪の間に金平糖を挟んで、お日さまの光に
透かしながら、キラキラ光る金平糖を眺めました。