カサカサ②
前後から現れた人影から守る形で身構えた。
「君たち何処から来た?」
僕の前に人影が寄ってきた
街灯に照らされて見えたのは普通のおじさんだった
「普通に道歩いて来ましたけど」
細かく話すと面倒臭そうなので適当に答える
「カサカサに連れてこられたんじゃないよね」
桑原の前から青年が か細い声で寄ってきた。
「連れてこられた?まぁ何かに追いかけられたけど」
桑原の答えに青年は頭を抑えてしゃがみこんだ
「どう言うことですか?」井野がざっくりと経緯を話す
おじさんはそれこそカサカサの罠だと返してきた
"カサカサって何なの?"
黒い塊で見たら喰われる位の話しか知らない訳で
自分達は見てもいないし、食べられてもいない
そもそもここは地元だけどなにかしら雰囲気が違う何処なんだろう?
僕は青年とおじさんに問いかけた
ここが何処なのかは二人共解らないそうだ
ただここは夜しかなくて長い間ずっとさ迷っているそうだ
景色は僕達の地元だと伝えると青年もそれは同じだと言っていたが同じ地元なのに僕達も青年も顔を知らない。
年齢を聞くと青年は24歳だと言う
僕達は28歳なので知らない事はないはず
おじさんは聞いてないけど48歳と言っていた
どれくらいさ迷ってたかは解らないが2人共カサカサを調べてここから出る方法を探しているようだ
「カサカサは黒い塊だけでは無く何かの上に黒い物が乗っかってるんだと思う」
おじさんはこの空間で何回もカサカサから逃げてるようだ
何回か隠れて覗き見をしたことが有るとか
少しずつみてるうちにカサカサの形が解るようになってきたみたいだ
ただちゃんと見たことはない
「弱点とか無いんですか?」
白山が僕の背中に隠れながら聞いた
「弱点?」
「口裂け女ならべっこう飴とかポマードみたいなやつ」
質問に対して驚いた顔をするおじさん
どうやら逃げるので精一杯で倒すことは考えた事が無いそうだ
青年はカサカサの分析をしてると言っていた
とりあえず来た道を戻ってみようと皆で歩き始めた
追いかけられたのは人魂の出るお寺
そこまで行ってみよう
街灯がなくなり辺りは暗くなる
本当に不気味だ
虫の鳴く声も生活音もしない
「食事とかどうしてるんですか?」
白山がおじさんに問いかけた
「食事?」
なぜか疑問系で返事をしてきた
カサカサ カサカサ
後で音がしたがおじさんは話続けて
「食事はねぇさいき…」
おじさんの上半身が消えた
「キャー」叫ぶ女子達
「カ、カサカサだ」
青年が叫んだ時おじさんは全部なくなっていた
「何処だ!くそっ!」
桑原が闇雲に拳を振り回す
怖いのか目をつぶって振り回した拳は僕をかすめた
「危ない」
桑原の拳を避けた僕は体勢を崩して転んでしまった
痛てててと体を起こそうとした時目の前に何か居るのが解った
僕の目の前に居るカサカサの姿を認した
「わりぃ、大丈夫か」
桑原が腕をひっぱって起こしてくれようとした
だが、青ざめた僕の顔を見て僕の視線を追った
カサカサ カサカサ
視線の先から音がする
黒い物の下には這いつくばる着物をきた老婆
カサカサの音の正体は着物の擦れる音?
カサカサカサカサ
こっちへ走って来た
わ、わーと叫びながら走る僕達
這いつくばる老婆がそのまま追いかけてくる
「は、速い!」
驚く僕達を置いて青年が逃げ走る
このままではダメだ追いつかられる
カサカサカサカサ
暗いのにカサカサの老婆の顔はしっかり見えてる
カサカサを見たらハッキリと確認出来るようになったのか?
僕は白山の手を引っ張りながら色々考察する
カサカサは薄暗い時現れる
街灯が有るとこにはカサカサはいなかった
暗い場所に来たら現れた
そして夜しかない場所
「先逃げて」
白山をグッと引っ張り耳元で囁いた
「でも新町君は?」
「大丈夫。策があるから」
僕はそういって白山の手を離してスマホを取り出した
ライトON
ピカッと光るとカサカサの全部が映った
老婆の上には黒い塊というか黒い渦がモヤモヤと浮いている
黒い渦からもカサカサ、カサカサと音がしていた
光を浴びたカサカサはそのまま後退りするように逃げて行った
「す、スゲー」
桑原が歓喜の声を僕にくれた
「君たち凄いね、それなに?、懐中電灯?」
青年が笑顔で戻ってきた
僕の中の考察が膨れ上がる
「これはスマホです」
そう言いながら画面を確認した
やっぱり圏外だ
そしてもう一つの確証を得た
「スマホ?なにそれ」
青年が不思議そうに答えた
「お兄さん何年生まれですか?」
この答で僕の考察が1歩前進する
「昭和47年だけど」
皆が驚く
やっぱりそうだ
僕は仮説として皆に話した
ここは異空間でカサカサのエサになる者を蓄えておく保存庫ではないか
時間と言う概念がここにはない
スマホから時計が消えていた。
皆もスマホを出して確認するが全員時計が消えていた。
多分だけどこの空間に慣れたらお腹も空かなくなる
さっきまで物凄く喉が渇いていたのに今は何ともない
暑ささえ平気になってきている
この仮説に「じゃあ俺らは食料?」
桑原の質問に僕は頷いた
「嫌よ!帰りたい!」
井野が今にも泣きそうな声で叫ぶ
「この仮説が正しければ帰れるよ」
僕は保存庫で有る限り何処かに出入口があるはず
カサカサだって僕達のいた世界に現れているのだから何処かに繋がっている
それを聞いた皆が明るい兆しが出たと喜んだ
あくまでも仮説だが
「僕は戻ったら時代についていけるかな?」
青年が心配そうにしていた
「これも仮説ですけど出たら居なくなった年に戻る気がするんですよね」
歳をとってない
時間という概念がここには無いなら戻るのは消えた時ではないか?
勿論根拠はない
空間の時間構造が"無"ならば過去にも現在にでも繋げられる気がした
「君凄いな」
青年は感心して笑った。
「専門的な事は解らないですよ、妄想です」
少し照れた僕を皆も誉めてくれた
そのまま暗い道を歩く
スマホのライトを照らしながら歩き続けた
人魂の出るお寺を過ぎるがあまり何も感じない
「スマホの電波見よう」
圏外のまま
まだカサカサの世界に居ると判断した
スマホのバッテリーが減らない事に井野が気づいた
これは不思議だがとても助かる
このまま学校に戻れば何かしら解るんではないかと提案して皆で向かった
青年が改めて自己紹介をした
彼の名前は小文間
今までも何人かに逢ったが皆居なくなったと寂しげに言う
国道に出た、街灯が消えている
間違いなく来た時とは違う
なら国道から工場脇を通る道に出入口があるのでは
皆で来た道をまた戻る
カサカサ カサカサ
またあの音がした
あと1.2話で終わる予定です
お付き合いお願いいたします