第二章 世界を守る者達 第二話
そして、その日の夜。
彼は公園で夜を過ごしていた。
当然冷房も暖房もない風晒しの公園で一夜を過ごすのは相当苦労するだろう。
「さて、明日から東京へ向かう為にお金を貯めないとな…
現在所持金は三千円…ここは九州だからこの金を全て使い果たしても足りない…
バイトしなきゃな…でも、中学生からでもバイトって出来たんだっけ?」
残念ながら中学生ではバイトは出来ないぞ。
高校生からならバイトは出来るが、中学生は出来ないはずだぞ。
「仕方ない、年齢詐称して働こうか…」
まぁ、生活困窮者はそうするしか働く道はないよな。
しかし、本当に大丈夫なのだろうか?
見た目の割に大人びている彼でも、いきなり一般就労に就くのは現実的に厳しいはずだぞ?
そんな時、彼のスマホがブーブーと鳴る。
誰からかの通知だろうか?広大はスマホ画面を開く。
「ん、連絡先不明…?出てみるか…」
広大は連絡先の分からない電話に出た。
すると、その電話主は意外過ぎる者だった。
『まだ名も知らぬ人間よ、私の声を聞いてくれてありがとう』
「……?誰ですか?」
『おぉっと、自己紹介がまだだったね?
私はこの世界の最高神とでも呼んでくれ』
「は…はぁ…?」
『早速の所悪いが、君にやってもらいたい事があるんだ』
「いきなり過ぎますね、ですが、条件があるんですけど良いですか?」
『良いよ、言ってみな?』
そして、最高神を名乗る男に広大はこう交渉する。
「今、私、家を追い出されて金欠なんですよ…
だから、お金を恵んでくれませんか…?」
『何だ、そんな事か…金なら私の元に腐る程ある。
私の依頼を受けてくれるなら今後幾らでもあげようじゃないか?』
「気前良過ぎるでしょ!?
…でしたら、お受けしますが…」
広大がそう言うと、最高神を名乗る男はこう言葉を続けた。
『単刀直入に言おう、この世界に私の知人の手が迫っている…』
「知人…という事は、その人も貴方と同じ神様という事ですか?」
『いいや、過去に大罪を犯し「神」の資格を奪われた…
「名無しの神」と言えば良いかな?』
「名無しの神…ですか…
しかし、神の資格を奪われているなら、必然的に備わっている力も奪われていて、
世界に干渉する力も失くしているはずでは?」
広大がそう疑問を投げると、最高神の男は苦渋の声を上げながらこう告げる。
『その男は…私の部下を殺して力を手に入れたんだ…』
「何ですって…!?
いやいや、というか、『神』の力ってそう簡単に奪えるものなんですか?」
『あぁ、継承する事も出来るし、命ごと奪える事も出来る…
すまない…私の不手際で関係のない君達の世界に迷惑を掛けてしまって…』
「いやいや、私は良いんですが…
その、その者がこちらの世界に干渉した場合…どういった弊害が?」
そう問うと、最高神の男はこう告げた。
『もし、君達の世界に彼が干渉すれば…
君達の世界は跡形もなく分裂し、君達の世界は彼によって…
新たな世界として全てがリセットされるだろう』
「そ…そんな…」
『あぁ、君たちの住む世界も私にとっては代えがたい宝だ。
現に、君の住む星では様々な高度の技術が発展している…
正直な話、君が住む星だけでも守りたい思いなんだよ?
だから、君に協力を願いたいんだ』
「もしや、彼の干渉を私達で止めろと言うんですか!?
私達は貴方方の様に強大な力を有していません…
ただの人間の一人に過ぎない私は貴方の力になれないはずです…」
世界の危機に何も抗う事の出来ない自分を責める広大に、最高神の男はこう言葉を告げる。
『勿論、「ただの人間」のままで彼と戦わせるつもりはない。
君と、そうだな…九人程の仲間を集めて…』
すると、最高神を名乗る男はこう提案する。
『これから君達は、
「君達の世界を守る為」に「君達の世界をハッキング」するんだ。
こうすれば、君達を倒さなければ世界に干渉する事は出来ない。
一時的な保険を掛けるんだ』
「世界を守る為に世界をハッキングする…
しかし、ハッキングするという事は…即ち世界を掌握する事…
どれ程の力でその神業が成せるのか…ですよね?」
『あぁ、だから…私の力をコピーした力を君に与えよう。
要するに、君はこの世界の二人目の最高神様になるという事だよ?』
「二人目の最高神様…それは理解しました。
ですが、先程九人程の仲間を集めると言いましたが…
もしや、その仲間にも力を…?」
『その通りさ、しかし、全員に私の力を与えるのは時間的にも体力的にも厳しい…
力を与え過ぎて私が眠りに入れば、それこそ世界の危機に繋がりかねないからさ?
だから、私の所有する「九つの力」をそれぞれ一つずつ九人の仲間に与える。
そうすれば、九人揃えば三人目の最高神が生まれるという事、だよ』
そう、最高神の男は複数の手段を使って世界に干渉せんとする
神の力を奪った「名無しの神」の暴走を止めようとしたのだ。
「しかし、いきなり九人の仲間を集めるのは…私、家出したばかりなので…」
『家出!?君がかい!?』
「はい…お恥ずかしながら…」
『まぁ、私の知り合いにも仲間の候補は沢山居る。
そこからも数人紹介しよう』
「はい…すんません…」
という訳で、最高神とただの人間の黒川広大で世界の危機を救う戦いの狼煙があがった。
そして、現在に至るという訳だ。
「そ…そんな馬鹿みたいな話が…実際に起こるとでも言うんですか…!?」
「あぁ、何なら最高神様の口から聞いた方が早い…坂田、最高神様と連絡を!」
「はいはい…メーデー、メーデー!最高神様、貴方に会いたいと九人目の仲間が申しています」
『そうかい、じゃあ、すぐそこに向かおう』
電話か何かの類で坂田が誰かと連絡を取っている。
そう俺がボケーッとしていると、教室にまた新たな顔が現れた。
「やぁ、皆…久し振りだね?」
「も…もしや、この人が…?」
「そうだよ、彼がこの世界で一番の力を持っている…最高神様だ」
☆最高神と名乗る男の見た目は、「神」の名に恥じない高貴な雰囲気だった。
髪は銀髪で肩まで伸びていて、先を三本の束にしてまとめている。
服は江戸時代を彷彿させる和服を着用している。
しかも、裸足だ…靴も靴下も履いていない…
「君が『九人目』の私の仲間みたいだね?
初めまして、どうぞ宜しく?」
「は…はい…よろしくお願いします」
俺は最高神様の手を握った。
何と言うか、「神」と呼ばれる者とこうして出会えるとは…
感慨深いものを感じる…
俺が手を握っていると、最高神様の体から白い光が放たれた!
「んなっ…!?」
「さぁ、これで…私がやりたかった事全てをやり終えれる…!」
そう言い終えると、彼から放たれた光はゆっくりと俺の右手に籠められた。
「こ…この光は…?」
「私の最初で最後の贈り物だ、君にならきっと、この力を使える…
その時を楽しみに待っているからね?」
「……」
何だかよく分からないが、後でステータス表でも見れば一目瞭然に分かるだろう。
俺に力?を与え終わった最高神様はこう言葉を続ける。
「坂本君にはまだこの話を…いいや、黒川君と坂田君以外の皆にも詳しい話をしていなかったから…改めて、この世界の危機について語ろうじゃないか?」
そして、黒川さんの話の続きを最高神様が続けた。
「黒川君の説明で私の知人の『名無しの神』が私の部下の命を奪い、力を手に入れて君達の世界を乗っ取ろうとしている事は知っていると思う。
でも、敵側の戦力までは詳しくは分からないでしょう?」
「確かにな、俺は黒川と一緒に話を聞いてたから一通り分かるが…
他の皆は『分かりませぇーん』状態だしな?」
「では、軽く説明をしよう…」
そう言うと、最高神様は会議で使うサイズのホワイトボードを取り出した。
そして、手慣れた手付きで簡単に分かり易い表を書いてくれた。
意外とこの世界の事に詳しいんじゃないのか…?
「さて、ここに書いてある様に…
敵側の大将はエリュピス、私の知人の『名無しの神』だ。
続いて、個人名までは分からなかったが…
〈異世界の神王〉が計6人
〈異世界の神〉が計6人
〈異世界の準・神〉が6人
〈異世界の神の下部〉が10人
敵の主な戦力はこのくらいだ」
「結構居ますね…俺達だけで倒せるのでしょうか?」
「坂本君、皆の力を借りる為に私はこの世界をハッキングしたんだよ?」
「でも、貴方は最高神様が話した事実を隠すつもりなんでしょ?
つまり、力を借りる事は出来ない…って事ですよね?」
「あぁ、でも…私を倒す為に強くなれればそれで良いと思っている…
だって、その時は私よりも強大で巨悪のエリュピを倒す為に動いてくれるはずだからね?」
「黒川さん…」
俺は…この事実を隠して生きて行かなければいけないのか?
九人目の仲間として、戦わないといけないのか?
出来る自信はあるが、今少し覚悟が足りていない…
「そして、彼を止めなければ更なる悲劇が生まれる…
奴は死人を使って世界を壊す事を好んでいる…
つまり、坂本君の母親と敵として戦わないといけないんだ…
それは避けたいだろう?」
「え……そんな事が起きるんですか…!?」
俺はサラッと衝撃的な事実を聞かされる事になる。
俺の母さんが敵として現れるかもしれない…だと!?
そんな悪夢みたいな惨劇…死んでも見たくもない!
「それを止める為には、君も心を鬼にする必要があるんだ。
親友や仲間に嘘を吐きながら生きるのは辛いだろう…
でも、それは皆の幸せな将来を守る為に必要な事なんだ。
だから、君も覚悟を決める時だ…」
そうだ…何も…皆と決別する訳じゃないんだ。
少し嘘を吐いて騙して生きるだけだ。
それは悪い事ではないと、最高神様も言っている。
つまりは、俺が取るべき選択は一つ…
「はい…俺なんかで良ければ、貴方達の力になりたいです!
世界を守れるなら、皆の未来を守れるのなら!」
俺も戦わないといけない。
本物の世界掌握を打破し、本物の世界平和を守る為に!
俺の答えを聞いた最高神様は俺の肩を軽く叩いてこう言葉を続ける。
「それじゃあ、まずは〈異世界の神の下部〉を全滅させる。
ここからが、私達の戦いだ!」
そういう訳で、俺は意図せず世界平和を守ると言う大き過ぎるミッションに取り組む事になった。
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